2007年1月の本の感想
翼は碧空を翔けて 2
三浦真奈美/椋本夏夜(イラスト)C-Novels Fantasia【bk1・amazon】
出征した兄に代わり王族の務めを果たすことを決意したロートリンゲン王女アンジェラは、”国防婦人の会”の代表として自分のできることを模索する。一方エグバードではセシルの飛行船が軍に提供され、実戦に用いられることとなる。軍に助力するセシルに反発したランディは大学で反戦活動に身を投じる。
3冊目で最終巻らしいのでシリーズ中編。本格的に始まった大戦の中、アンジェラのいるロートリンゲンサイドのお話と、セシルとランディのエグバード側のお話が交互に描かれていました。大戦中の敵国の人間同士ということでロートリンゲンとエクバードの人間の交流はないのだけど、それぞれの「戦争」が描かれていて非常に面白かったです。
少し失敗しながらも自分のやること、やるべきことをしっかり見つめて王女としての務めを果たし、見事な王女振りを発揮するアンジェラは、王道といえば王道展開ながらも読んでいて爽快でした。一方のエグバードでのセシルvsランディは一方的にランディが噛みついているようで見ていてかわいいと言いますか(ランディ君に非常に失礼)。セシルの内面をかいま見られる場面も多く、ますますアンジェラと再会したときの展開が楽しみになってきました。
戦後編という最終巻、世紀のラブロマンスを期待して続きを待ちたいと思います。
ユーフォリ・テクニカ 王立技術院物語
定金伸治/椎名優(イラスト)C-Novels Fantasia【bk1・amazon】
19世紀末、世界では「水気」と呼ばれる新しいエネルギーの研究が盛んに行われていた。その水気の研究者として東洋人で初めて叡理国の王立技術院応用水気技術学科に赴任してきたネル。しかし、東洋人のネルの研究室には研究生の応募はなく、唯一やってきたのはエルフェールと名乗る変な少女だけだった。
各所で面白いという感想を拝見してコレは読まねば、と思っていて読みました。そして、おーもーしーろーかった!です。どれくらい面白かったかというと、寝不足になるくらい(注:だいたい寝る前に本をん読んでるんで、新書は2〜3日に分けて読まないと睡眠時間が……)。
まず何よりも惹かれたのは、技術に対する熱い思いと、エルフェールやネルをはじめとする登場人物達の真摯な姿でした。研究室では根っからの文系人間には想像もつかない過酷な実験の日々を過ごされていると噂には聞いていたのですが、いや、これはすごいです。そりゃ軽く死ねるわ……。そして、いろいろ苦難を乗り越えながら、努力が形となって報われるというこのサクセスストーリが気持ちよく、一緒に「やった!」という気分になれるところが良かったです。
2点目はやっぱり、破天荒な王女様エルフェール。変人というか、むしろ変態の方がしっくり来るほどのお嬢さんなんですが、怒りを原動力にどこまでも突き進んでいく姿がこれまた気持ちよくて。彼女はことある毎に額を割りまくってちょっとそれはやりすぎでは作者さん、と思わなくもなかったですが、面白かったのでまあいいか。エルフェール以外のキャラクターもみんな味があって良かったです。
物語は完結しているものの続きもありそうなので楽しみです。徐々に研究室もにぎやかになっていって、次はどんな新しい世界を見ることができるのか楽しみに待ちたいと思います。
鬼ごっこ
青目京子/あづみ冬留(イラスト)講談社X文庫WH【bk1・amazon】
女子高生の莉子は17歳の誕生日びでもある七夕をを前に不自然な喉の渇きに悩まされていたが、それ以外は至って平穏な日々を過ごしていた。しかし、彼女の誕生日のその日に莉子に謎の忠告を残した教師が失踪し、続いて莉子の親友・若菜姿を消す。莉子の身にも危険が及ぶが、彼女を助けたのはやってきたばかりに謎の転校生・零だった。
去年の夏にやった
(もう去年かいな……)「
オススメ本をひとつよろしく」でオススメ頂いた作品を今更になって読みました。……、今頃でスイマセン。
そして読んで納得。たしかに面白いっ!デビュー作とその続編もたしかに面白かったのですが
(2冊目の感想書いてないや)、個人的にはこちらの方が好みです。伝奇モノで、しかもシンプルなだけに恐ろしいこのタイトルからどれだけおどろおどろしいものかと戦々恐々としていたのですが、そんなこともなく。怖いの苦手な私でも十分読み進められていける伝記物でした。でも、あの方達の末路については容赦ないなーとちょっと怖かったです
(←実際のとこはたぶんたいしたことない)。
舞台が和歌山ということで(和歌山であることにもきちんと意味があるところに感心しました)、多くの登場人物が関西弁なところに親近感が沸き(ちゃんとした関西弁でしたよこれ)、鬼になってしまった元・普通の女子高生があくまでも普通でいたいというあたりが非常に良かったです。そして、追う立場である「彼」の心境もなかなかに良かったです。
一冊完結っぽいですが、続きがでる余地も十分ありの作品ですね。今更ながら、続きでないかなーとそこはかとなく期待しておきます。
パレドゥレーヌ〜薔薇の守護〜
妹尾ゆふ子/皇なつき(イラスト)コナミノベルズ【bk1・amazon】
ターブルロンド王国の王女フィーリアは侍女のエクレールや乳兄弟のヴィンフリート、そして彼女の騎士を自称するアストラッドらに囲まれ幸せな日々を送っていた。しかし、そんな子供時代がいつまでも続くものではなく、王女としての責任と自覚がフィーリアを少しずつ大人に近づけていった。
ゲーム「パレドゥレーヌ」の小説版はゲームの3年前の王女(12歳)とその周辺の出来事を描いた物語でした。ゲームを一通り楽しんだ私としては、非常に楽しめる小説でした。「人生前のめり」のエクレールは小説でも元気いっぱいで姫様命、アホの子アストラッドはやっぱりここでもアホの子全開(す、すいませんこれ以外に表現法を思いつかなかったのです)、悩めるヴィンフリートはここでも苦悩の海を泳ぎ、そして将軍と宰相は犬猿の仲。個人的には何が楽しかったって、もちろん将来のメガネ執政官(ヴィンフリート)で決まりです。武闘派の父親との確執、王女への思いと執政官好きとしてはこれは非常にすばらしい物語でした。影の主役はヴィンフリート、絶対にそうに違いないと読んだ後に一人で納得していたのでありました。
他にもゲーム本編では失踪しているのでよくわからない兄王子がなかなかいい味を出していたんですが、彼は一体何者なんでしょうかね〜?小説を読んで余計に気になってしまいました。
ゲーム未プレイの方でも楽しめる作品だとは思いますが、ゲームをやっているとあんな人やこんな人に思わずにやりとする場面が多くて面白かったです。おおざっぱにカテゴライズしてしまうと、主従モノ好きならわりとツボに来る物語だったのではないかと。
花咲く丘の小さな貴婦人 寄宿学校と迷子の羊
谷瑞恵/春日桃子(イラスト)集英社コバルト文庫【bk1・amazon】
両親を亡くしたエリカは、唯一の血縁者である祖母を頼り父の故郷であるイギリスにやってきた。しかし、祖母は日本人の血の入ったエリカを孫と認めず、会おうともしなかった。行く場所を失ったエリカは、祖母の知り合いが経営するという寄宿制の女学校に入学し祖母の認める貴婦人になるための勉強をはじめる。
寄宿学校でガール・ミーツ・ボーイなんて、と思っていたら男子校に併設された女子校でしかも施設を借りたり授業を一緒に受けるからって、なんて力業。そんな19世紀末の先進的な寄宿制女学校(+男子校)を舞台にした物語。女性が勉学の道に進むことが珍しかった時代に、男女の壁を越え、伝統の壁を越えていく前向きなヒロインが非常に力強く思えました。
寄宿学校ならいやーな感じの同級生とか真夜中のお茶会とかベタな所を期待しておりましたが、なんせエリカを入れても3人しか女生徒がいないのでそこら辺は無理です。女生徒との関わりは若干少なめでしたが、それでもイザベラもドロシーもなかなか良い位置にいますね。
そして肝心のガール・ミーツ・ボーイ部分は……、金赤銀とよりどり取りそろえておられましたが誰がなんといおうと赤毛で(笑)。たとえ、王子様ポジションと最後のおいしいところを全て金が攫っていたとしても、赤毛で。最初反発→エリカのがんばり見てちょっと見直す→裏でサポートしようと、などと非常に重要な所を全て担っているであろう赤毛さん、続きがあるのなら彼のがんばりに期待をしたいと思います。
恋のドレスは明日への切符 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー
青木祐子/あき(イラスト)集英社コバルト文庫【bk1・amazon】
アイリスとの関わりを恐れ、貴族からの依頼を全て断ることにしたクリスは鉄道王の娘パトリシアのドレス制作を引き受ける。パトリシアは使用人のユベールとの恋を叶えるドレスを作ってほしいと言うのだが……。
恋のドレスの5冊目は鉄道王の娘さんが依頼主の物語。クリスとシャーロックの微妙な関係のちょっとした前進、アイリスとの直接対決や死んだというクリス母と闇のドレスの関係についてなど盛りだくさんの内容でした。毎回毎回強調される「身分差」という絶望的な現実を見せつけられ、ハードルが高いものほどドラマティック!と読んでいて変なところで燃えてしまいます。
クリスの過去を少し知る人物の登場で謎が少し明かされてきましたが、まだまだ分からないことはたくさんです。一番気になるのはやはりアイリスと闇のドレスのつながりでしょうか。謎が謎を呼ぶ展開でした。そして、話が進めば進むほど姉御肌のパメラがお気に入りになっていきます。彼女の方にもちょっとしたロマンスの進展があるようで、メインの二人同様に気になります。
スカーレット・クロス 月蝕の復活譚
瑞山いつき/橘水樹・櫻林子(イラスト)角川ビーンズ文庫【bk1・amazon】
ツキシロはギブのために≪聖櫃≫を閉じる覚悟を決めた。対して≪聖櫃≫を閉じてツキシロを失いたくないギブは彼女を失わないためある賭に出ることを決める。
スカーレット・クロスの最終巻。なんやかんやで10冊もの長編シリーズになっておりました。そして最終巻を読んだ感想は、本当に良かったね、という一言に尽きます。途中、このシリーズはここまでらぶかったですか?と違うお話を読んでいる気分になりましたが(今まで両者の空回りとすれ違いでしたからねぇ)、そこらへんもシリーズを追いかけてきた身としては醍醐味だったのではないでしょうか?
メイン周辺がすっかりバラ色なので流してしまいましたが、全てのはじまりの≪聖櫃≫関係の真相はかなり痛々しいものでした。しかし、後生の彼らが幸せに慣れたから王達も救われた、と考えても良いかもしれませんね。
何はともあれ、完結おめでとうございますです。次の新作も楽しみ。
星宿姫伝 しろがねの永遠
菅沼理恵/瀬田ひなこ(イラスト)角川ビーンズ文庫【bk1・amazon】
神杖国に復讐を果たそうとする朱月と対峙する白雪と四騎士達。朱月の望みを叶える力を持つ白雪は、彼の望みを叶えるか国を守るかの選択を迫られる。
最初に読んでいた頃には予想もつかなかった着地を果たした完結編でした。血なまぐさい場面も容赦なく描いていたところは良いなぁと思いますし、なにより最後までグダグダにならずきれいに終わったところが好印象。
しかし、登場人物が総じて薄かったのが惜しいなぁ、と。一番印象に残っているのはヒロインでも脇を固める四騎士でも復讐に凝り固まった元父親でもなく、すでにお亡くなりになっている前斎宮とその母(こちらは生存しております)ってどういうことですかこれは。作り込まれた設定、そしてわんさかいる登場人物で全体的に薄味になってしまったのではないかと思うのです。全部もれなく出すのもいいですけど、もちっと絞られた方が私の好みだったようです。一番苦労したのは登場人物の名前や愛称・称号(?)に慣れることでした。ど、どれかひとつにして頂きたく……。
次のシリーズはもしかしてくろがね編だったりするのかな?
楽/園
三條星亜/岩崎美奈子(イラスト)講談社X文庫WH【bk1・amazon】
マッチ売りと呼ばれる情報屋家業で生計を立てている娘アレグリット。アレグリットは依頼を受けて情報収集に訪れた街で、迫害を受けている少数民族の少女サキユを保護する。
WHの新人さんのデビュー作。一作目が出る前からすでにコミック化が決定しているらしいとなんだか超好待遇です。そして読了後の感想は、面白くないとはいわないけれど、となんとも中途半端な感触を持ちました。舞台となる世界は近代の入り口くらい、ただし異形の少数民族有り。そして暗黒街「おとぎの国」をはじめとしてブロックごとに別れている社会構造とかなり作り込まれていて好感触なんです。アレグリットの無敵っぷりも読んでいて爽快でしたし。しかし「ダークファンタジー」と銘打っている程ダークじゃなかったのが肩すかしでしたよこれは。あとはアレグリットの語尾の記号各種にかなりの違和感を感じてしまいました。ここんとこは個人差があると思うのですが、私はダメでした。基本的にはシリアスなお話なのになぁ。
まだ一冊目ということで各登場人物・世界の様子など顔見せ程度だたので今後広がっていったらおもしろくなりそう、とは思うのですが……。
紅牙のルビーウルフ 宝冠に咲く花
淡路帆希/椎名優(イラスト)富士見ファンタジア文庫【bk1・amazon】
導きの剣を取り戻すため、未知の島・ローラティオーに住まうアウローラ族と共に行動することになったルビーウルフ。ルビーウルフとその一行は、アウローラのヘリオトロープと共にクレプスムルク族に囚われたミレリーナの救出に向かうことになる。
全知の書の謎と5つの神具が集まったらどうなるかという点はひとまず横においておいてのルビーウルフの第一部完結編。前回の裏切りの結末や(これは寂しくそしてよい話だった……)、まさかそんなところに神具がって予想もしてなかったですよといい意味で期待を裏切られ、そして今回も狼君達がかわいかったので満足〜。そして、ルビーウルフの望む未来の一片に思わずにへらと笑いが。もうさっさとジェイドを婿に(毎度ながらのつっこみ)。そこに至るまでの過程も楽しいんですけど。
今回ちょっろっと初出のエミリエンヌ姫(ラークとのコンビがいい味出しております)といい、神具の謎といい続きも楽しみなので是非とも第2部も読んでみたいです。