2007年4月の本の感想
リリアとトレイズVI 私の王子様(下)
列車内で発生した事件の数々は”お嬢様”を狙ったものだと考えたトラヴァス少佐は、一般人の乗った車両とお嬢様一行の車両を分離することにする。しかし、犯人の目的はトラヴァス少佐の考えていた人物ではなかった。
このサブタイトルは、”お嬢様”のことだったんですね、と思わずにはいられないくらいマティルダ様が素敵でかっこよかったです。さすが王者の貫禄。トレイズ君とは大違いです。しかし、一応彼のために弁明するとリリアを助けに単身乗り込んだ姿は大変かっこよかったです。
謎の<囚人四十二番>については、かなりあっち方面に飛んでいかれている異常な方で好感を抱くはずもないのですが、しかし、トレイズ君とのやりとりに思わず笑ってしまいました。……、いや、緊迫した場面だとは十分承知しておりましたが、しかし、あそこは……。
物語は一応の決着を迎えたとはいえ、続き読みたいーと思ってしまうようなラストでした。次の構想は今のところないとのことですが、続きいつかでないかなーとそこはかとなく期待しておきます。
オペラ・ラビリント 光と滅びの迷宮
栗原ちひろ/THORES柴本(イラスト)角川ビーンズ文庫【bk1/amazon/boople】
光魔法協会に囚われた詩人ソラを救い出すために、帝都に潜伏しているカナギとミリアン、そしてリュリュ。一行はソラの居所を探るためにひとまずバシュラールを捜すことにする。一方バシュラールは帝都でのきな臭い動きに巻き込まれていることに気付く。
オペラ・帝都編第一弾。光魔法協会の本拠地に乗り込んだだけあって緊迫の連続の展開でした。今回はリュリュがある意味癒しのポジションでした。出てきた当初はこんなにいい子で変な子とは思っていなかったのに……。主人公はいつもに増して死の淵をさまよいすぎだし、あの人物にそんな背景がっとだいぶおとろきました。
世界の謎や光魔法協会の意向、そして皇帝の真意など手に汗握る展開の数々でした。危ういバランスの上に成り立っているこの世界が果たしてどうなっていくのか続きが楽しみです。
(株)魔法製作所 赤い靴の誘惑
シャンナ・スウェンドソン/今泉敦子(翻訳)創元社推理文庫【bk1/amazon/boople】
社内スパイ事件が発生し、犯人探しの責任者となってしまったケイティの元に、テキサスから両親がニューヨークにやってくるという連絡までやってくる。ただでさえ忙しい毎日なのに、あれやこれやの騒動ばかり起こるケイティにとんでもない事態が訪れる。
恋と仕事と魔法に奔走される「普通」の女性の物語、第2弾。今回も前作同様、面白かった!です。終始ニヤニヤしながら(←端から見ると、変な人)読んでおりました。
ようやく恋人らしきものもできたにも関わらず、理想の権化とも言えるオーウェンにときめきつつも友達の立場を死守しようと奮闘し、同じ能力を持っているらしい母親のニューヨーク襲来に応対に四苦八苦し、そして疑心暗鬼になるスパイ事件に頭を悩ませと今回もいろいろとスリルとサスペンス、そしてラブが溢れておりました。
ここにときめかずしてどこにときめくんだっ!というポイントが要所要所に待ちかまえていて、ときめき疲れます。読むのにある意味心の体力を要する物語です。しかし、読み終えたあとの「幸せ感とすがすがしさ」はやっぱりすばらしいですねぇ。
訳者さんの後書きによると、第3巻はアメリカでは5月に出るとか。日本語版の登場を心待ちにしたいと思います。
(株)魔法製作所 ニューヨークの魔法使い
シャンナ・スウェンドソン/今泉敦子(翻訳)創元社推理文庫【bk1/amazon/boople】
テキサスからニューヨークに出てきたのはいいものの、職場の上司には恵まれず恋人もおらずと鳴かず飛ばずの日々を送っているケイティは、羽の生えた人や空飛ぶガーゴイルなど街で「おかしな」ものをよく見かけていた。そんな彼女に「MSI」という謎の会社からの求人案内がやってきた。上司と大げんかをしたケイティはMSIの申し出を受けることにするのだが……
海外翻訳物がどうも苦手で、面白い面白いと聞いていたものの何となく手が伸びていなかったんですが……、とっても面白かったです。あえて字体かえるくらい面白かったです。いろんなサイトマスターさんたちが悶絶されているのもよく分かります。分厚い本ですが、読み出して調子乗ったら一気は確実です。翻訳物だからといって回避していた数ヶ月前の自分、そこで正座して反省しなさい。
何が良かったって、ときめきまくるケイティが面白く、そして無駄にオトメゴコロが騒ぐ憎い演出の数々がこのやろうという展開がツボです。ケイティもうっとりするだけじゃなく、頭の回転の良さとポジティブさがこれまた素敵。ケイティの「常識」からいろんな「ありえない」ことにツッコミを入れているところも面白かったですねぇ。
彼女を取り巻く男性陣は言うに及ばず、会社の同僚やルームメートたちも面白い人揃いでこれまたすばらしいです。メチャクチャかっこいい凄腕の魔法使いオーウェン(ただし、シャイ)とケイティと同じ立場の普通の人・イーサンと、ケイティにもようやく「隣の妹」ポジションから脱出できそうな気配です。続きも楽しみ〜。
ときめきの「ドキドキ」とスリルの「ドキドキ」両方を目一杯味わってお腹一杯になれることは請け合いの一冊です。メールでも太鼓判押されてしまっているので(笑)、続編ももちろんすぐそこに控えております。
されど月に手は届かず 魍魎の都
春宮・師王親王の乳兄弟である橘則光は、親王が悪夢にうなされているのを知り、安倍晴明のもとを訪れる。晴明の助力は得られなかったが、渡辺綱に力を借りることができた則光。親王を助けようと奔走する則光だが……。
勉強不足で有名だと言われる人物が超有名級しか分からなかったんですが、わりと良かったです。『頼光四天王』の四名様(+綱)のキャラが立っていて面白かったです。ああ、あと保胤先生がご登場されていてなんだか変な気分(笑)……(←違うシリーズです)。
何でもこのお話は外伝で、前半にちょこっとだけ出てくる女の子がツンツンからデレになるところが本編らしく、そんな面白そうなネタ(と女の子の正体)を知ったらそっちの方がめちゃくちゃ気になるじゃないですかっ!と思った次第であります。
マイフェアSISTER 姫君、拳を握りすぎです。
普通の高校生・師走は年末年始のバイトと称して東京に住む従姉ミキの依頼で東京にやってきた。師走の仕事はミキの家に滞在している「異世界」のお姫様アネモネ(10歳)を接待すること。アネモネは東京に出奔してしまった大事な人を捜しているらしく、師走は彼女の人捜しを手伝うことにする。
竹岡さんの新作は、現代ものだけどナチュラルに異星人とかそういう存在が認知されている世界を舞台にしたドタバタコメディでした。ここまで本格的にSF(チックなもの)が来るとは思わなかったので軽く驚きです。
さまざまな"SISTER"と彼女らに翻弄されている師走の様子が面白かったです。実妹の睦月(売れっ子女優)、従姉のミキ、そしてお姫様のアネモネ。とくにアネモネとその兄はよいですなぁ。笑える兄妹だと思っていたら……、割といろいろ不意打ちでいい意味で裏切られたように思います。
最後の方の驚きの展開などさすがだなーと楽しめました。私の好みにジャストミートではなかったのですが(個人的に竹岡さんの最強作はストレイシープだと思っている)とにもかくにも新作が読めるのは良いことです。
彩雲国物語 青嵐にゆれる月草
王のお妃候補として後宮に入る藍家の十三姫が何者かに命を狙われているらしい。御史台での仕事を始めた秀麗は、十三姫を守るため彼女になりすまし後宮にはいることになった。
王のお妃候補として藍家より送り込まれた十三姫とは?藍家と王の間でゆれる楸英は?近頃挙動不審の珠翠と縹家との関係は?といろいろ盛りだくさんな内容でした。そしてほとんどが次巻を待てとの展開だったのでニクいです。
今回初登場の十三姫、かなり芯のしっかりした頼れるアネキタイプの女性で……、うわ、めちゃ好み(笑)。この物語はいろんな意味で強くて気持ちのいい女性が多いので読んでいて爽快です。そして、秀麗vs清雅もなにやら一筋縄ではいかなさそうで……、うーん、清雅はあくまでも”ライバル”ポジションでいいと思うんだけどなぁ、秀麗争奪戦に加わることになるんでしょうか?加わったとしてもえらく屈折した愛情になりそうですが。
次回は劉輝と藍家の楸英争奪戦の本戦になりそうですが、もう悩むの止めて!と思わずにいられない楸英をどう引っ張り込むか、王様の器の見せ所ですね。
ユスティニアの花束
ユスティニアがアダルシャンに嫁ぐ前に彼女が誰よりも信頼していた騎士との物語や、アレクとユーゼリクスの物語、アレクとフラッドとの出会いなどを描いた短編集。
アダルシャンシリーズの短編集はやっぱりいつも通りかわいい姫様を堪能できる一冊でした。姫様とそのダンナのアツアツっぷりの被害者のお話や、本編を読んでいたら泣ける話になっている昔のかわいい姫様など破壊力抜群です。さすが姫様です。そして、ユスティニアが登場しないところでは小さなアレクがかわいらしかったです。小さなアレクのかわいさには根性のひん曲がった幼少期を過ごされていた兄も副官も太刀打ちできなかったようです。
本編がシリアス一直線の展開なだけに、これらの和む展開はよい一服となりました。
光の精煉師ディオン 旅立ちの朝は君と
父親の才能を受け継ぎ、抜群の<精煉>の腕を持つディオンの夢は国家資格に受かり正規の<精煉師>になり、愛犬の心臓を治すことだった。しかし、ディオンの祖父はその夢に反対し、国境警備の軍人になることをしきりと薦めていた。ある日、祖父の元を一人の少年フェルナンドが訪ねてくる。彼が祖父に預かってほしいと持ってきた奇妙な箱をめぐり騒動に巻き込まれ、志願した覚えのない帝国軍への入隊試験も受けることになってしまうディオンだが……。
前作(デビュー作)ではどうもしっくり来ず途中脱落してしまった作者さんの新シリーズ。あれ、この方ってこんなに面白いお話書かれる方だっけ?と思わずにはいられないくらい、楽しんでしまいました。絶賛、というわけではないのだけど、個人的には現時点ではわりと好みのお話でした。
<精煉師>になりたいと頑張るディオンは思わず応援したくなるタイプですし、フェルナンドの芯の通った所も好印象。周りを固める軍人さんたちも面白く、かっこよく(こちらは個人的にはかっこいいより面白い、ほうがポイント高かったですねぇ)。私の一番のツボはディオンの祖父様だったりするのですが(笑)。戦争は嫌いだけど、「人を殺さない戦い方もある」という道に気付き、前に進んでいくディオンのこの先が楽しみです。ほぼ男性しか登場しませんが、こんな雰囲気で話が進んでいくならうれしいな〜。
恋のドレスと硝子のドールハウス ヴィクトリアン・ローズ・テーラー
自分にそっくりな姉シャロンのドレスを仕立ててほしいやってきたエドの依頼を受け、ドレスを作成にかかるクリス。クリスはドレスを仕立てるのと同時にシャロンに届いた手紙の中から恋の相手も選んでほしいと言われる。
アイリスが一旦退場したため派手なシーンはなかったものの、とても楽しむことができました。いつの間にかクライマックスで終わってるやん、という展開でしたが、それでも十分といろいろおいしくて……。シャーロックは謹慎中のためクリスとの絡みはちょっと少ないのですが、しかしこのちょっとの密度が濃いのです。自分の気持ちを自覚し、受け止めたクリスに対してまだ若干うだうだしているシャーロックが非常にもどかしいけどでもそこがっ。手袋と夕食にこだわるシャーロックがちょっとおもしろかったりも(笑)。
毎回毎回突きつけられる壁が絶望的なのですが、やっぱり最後の最後はハッピーエンドに期待しております。クリスと闇のドレスも気になりますが、場外ではパメラをめぐって軽く一波乱ありそうな展開。こちらも気になるなー、先生がんばれ。
永遠の花園 さびしがりやの王女と始まりの園
精霊の宿る国グランディールでは、王族は精霊種から育てた花に宿る精霊と契約を結び、国を守っていた。しかし、第三王女のリィは精霊を見る力を持たないため、精霊種を育てることができない。王族としての務めを果たすことができないリィは自分の居場所を見つけることができずにいた。そんなある日、旅の道化師から精霊種を手に入れたリィは、皆に内緒で種を育てることにする。
コバルトの新人さんの初文庫。いろいろ悩みはあるけれど元気な王女様が頑張るお話っぽいので期待してはいたのですが……、えー、期待過剰だったかもしれません。
話の筋自体は割と面白く、アイディアもなかなかっ!と思えたりとエッセンスはかなり好みだったのですが、主人公リィの性格が、性格が(遠い目)。確かに元気で前向きな王女様でした。しかし、向こう見ずな前向きさはただの馬鹿です。この欠点をも上回る魅力があったかといえば、なかったですしねぇ。個人的には王女の考えがどうしても好きになれないので楽しみ半減、読み進めるのが少々辛かったです。謎はまだまだ残ったままで続きも出そうなのですが、続きは様子見で。