2007年6月の本の感想



愛玩王子

片瀬由良/凪かすみ(イラスト)小学館ルルル文庫bk1/amazon/boople

ある日、女子高生の比奈が家に帰ったら愛犬が魔界の王子様(てのひらサイズ)をくわえていた。しかも、手違いでその王子の指輪を指にはめてしまった比奈は、その指輪を取るために魔界に向かうことになる。魔界は比奈が思っていたようなおどろおどろしいところではなく、対面した魔王にも気に入られ、比奈は魔王主催のパーティーに出席することになった。

<注>タイトルに騙されてはいけません。ごくごく普通の少女小説です
と読むことをためらう要因を取り除いた上で(笑)、難しいことを考えずに軽く読める、かわいらしい楽しい物語でした。文章がそこはかとなく軽いのも、一人称だしまあいいか〜、と。おいおい順応しすぎだよこのヒロインと思わず突っ込みそうになりましたが、そこら辺も許せてしまう勢いがあったかな?そして、「そうそう、これを待っていたんだ」と思わず拍手をしてしまうそうになる展開もよかったです。少女小説はこうでなくては。
比奈の元気さと王子(小)のかわいさと魔王の面白さで成り立っているといっても過言ではないように思うこの物語、続きはいくらでもかけそうなエンディングでしたね。次があるなら十中八九学園ラブコメで攻めてきそうですが……、続き出たら読んでしまいそうだ。きっとお約束の展開(二人がすれ違って指輪が抜けない)とかあるに違いない……。
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恋のドレスと運命の輪 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー

青木祐子/あき(イラスト)集英社コバルト文庫bk1/amazon/boople

『薔薇色』にアメリカ人の機械工ラリーとその婚約者サーシアがやってきた。サーシアのドレスを作るため、彼らと車の旅に出ることになったクリスとその旅に同行することになったシャーロット。久しぶりにゆっくりと二人きりになる時間を手に入れたシャーロットはクリスに……

切ない、とても切なくてもどかしい展開です。クリスもシャーロットもお互いの身分や何やらを考えて一歩が踏み出せませんでそのまま悶々としていたと思ったら……、今回はついに微速前進、果たしてこの続きはっ!と非常にある意味ドキドキの展開でした。あの微速前進だけでここまで読者を悶えさすとは、侮りがたい物語です。
それにしても、話が進めば進むほどこの物語のヒロインはシャーリー君にしか見えなくなってきて困ります。思考回路が乙女だ、この人……。若干危うい方向に思考が歪んできているシャーリーの今後が少し心配です。そして、シャーリーと同じくらい気になるのはやっぱり闇のドレスかなぁ。クリスが今の闇のドレスについてどこまで知っているのかがキーポイントかな。こちらも合わせて、続きが非常に楽しみです。
Jun/29/2007 ↑TOP
 『恋のドレスと硝子のドールハウス ヴィクトリアン・ローズ・テーラー

エパタイ・ユカラ〜愚者の闇〜

高丘しずる/輝竜司(イラスト)B's-LOG文庫文庫bk1/amazon/boople

生き別れの弟・明と再会し、自分の出自を知った黎良。女学校で有力者の情報を収集するよういわれた黎良は、その罪悪感と明への思いから依頼を断れず、レジスタンスに情報を流し続けることとなる。しかし、彼女のこの行動は学校の友人達を不幸に陥れることにつながり……。

近未来の荒廃した日本を舞台に独特の世界が繰り広げられている”エパタイ・ユカラ”の第2巻。今回はきつい展開でしたね。前巻からほのめかされていたとはいえ、戻れない道を進んでしまった黎良。今までの砂糖菓子のような甘い女学校での生活が一転していく件のシーンではなんとも言えないもの悲しい気分になってしまいました。各所にちりばめられているモノローグを読む限り、彼女たちとの関係はこじれたまま、ということはなさそうなのですが、でも、何となく不安。ついに戻れない世界に身を置いてしまった黎良の今後の動向が非常に気になるところです。
あと、ひとつ気になるのは、今回のモノローグで誰の者かよくわからない上に気になるのがあったんですよね。最後の方のやつで、キーワードは「銀縁眼鏡」のやつ。登場人物紹介で眼鏡をかけているのはあの好青年しかいないんですが、ええまさかあの好青年がっ!という感じのモノローグなのでこちらも気になります。
続きが楽しみなような、怖いような非常にもどかしい気分。
Jun/24/2007 ↑TOP
 『エパタイ・ユカラ〜愚者の恋〜

クシアラータの覇王シリーズ

高瀬美恵/麻々原絵里衣(イラスト)講談社X文庫WHamazon/boople

家臣の謀反により両親を殺され、王宮を追われたクシアラータの元王女サラは、魔王ラディヤードに拾われ育てられた。やがて成長したサラは両親を殺された復讐のため、クシアラータの罪のない人々を襲う殺人鬼となり、恐れられていた。そんなサラの生存を知り、サラの暴走を止めようとするのは裏切り者で王に成り代わった元家臣の息子で次代の王シヴァ。幼なじみのサラを説得しようと周囲の反対を押し切り、サラの元に向かうシヴァにサラは剣を向けるのであった。

↑というのは第1巻のストーリ、全10巻+外伝2巻の全12巻からなる壮大なラブコメ、もとい国の思惑と人種(人間と魔族)の思惑が絡み合う大河ファンタジーでした。第1巻の発行が1991年、16年も前(既にたぶん絶版っぽいです)……、なんでちょっと古いかなぁと感じる面も多々ありましたが、読み進めていくうちにストーリーの面白さにそういう点はあまり気にならず、とても楽しむことができました。
国と国の緊張感のあるやりとりもいいんですが、やっぱりこの作品の基本はラブコメだーと感じていたのでラブコメ部分がとても面白かったです。魔族組ではギザニエとグラスターシャの進歩しないカップルの進歩のなさにやきもき。そしてサラとシヴァ、ラディヤードのある意味緊張感のある三角関係。サラは自分の気持ちに正直だし、シヴァはサラのこととなると見境なくなるし、ラディは達観しているしで修羅場はないんですが、でもこの微妙な関係が……、最後どうなるかと思いましたけどそう締めますか、と感心しました。ぼーっとしている子だなぁと思っていたシヴァ君が最後の方はちゃんと”王様”をしていて、なんだか一安心です。ぼんやりしてるけど実は凄腕な王様になりそうでした。
本編自体は9巻でほとんど片が付き、10巻は壮大なエピローグようなものでした。でも、この10巻がいいんですよね。最後まで読めてよかった!と思えたそんな作品。
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花宵ロマネスク−僕は天使にキスをする−

加藤千穂美/乃上冷紋(イラスト)B's-LOG文庫文庫>bk1/amazon/boople

宝生家の運営する月華修学院に中途半端な時期に新任教師として赴任することになった珠美。赴任初日になぜか一家の最高権力者に呼び出され、一族の誰かと結婚するように頼まれてしまう。珠美には宝生家の呪いをとく力があるというのだが、彼女には心当たりはなかった。

人気携帯電話オトメ向けゲームのノベライズ作品。原作ゲームはノータッチでのチャレンジでした。
うーん、これはゲームのファンブックというか、ゲームやってなかったら面白味の半分も感じられな(以下略)。描写はシナリオの羅列感が否めなく、視点がコロコロ変わるのも非常に違和感。もちろん、オトメ向けゲームが元なのでおいしいシーンは山ほどあります。題材自体は割と好みだなぁとは思うのですが、個人的にはいろいろと物足りなく……。一番の問題は、対象のオトコ共に好みのタイプがいなかったということですなっ!いろいろと地味に陰謀が張り巡らされているのでどうなるのかなぁという気分もしますが。
ゲームをしていないので評価が辛くなるという点を差し引いても、ここの所一番のがっくり小説でした。残念。
Jun/21/2007 ↑TOP

天空の瞳 ウォルドの婚礼と時の封印

橘香いくの/横馬場リョウ(イラスト)集英社コバルト文庫bk1/amazon/boople

領主の娘ヘレナの病を看たことから、彼女の身代わりとして敵国の領主ローアルに嫁ぐことになってしまったルシア。渦巻く陰謀の中、花嫁の一行は盗賊に襲われ、ルシアはオレグと名乗る謎の青年に攫われてしまう。”ヘレナ”をダシにローアルに復讐をするというオレグに今まで感じたことのない感情を抱くようになったルシアは……。

身代わりで嫁がされそうになる→いきなり盗賊に攫われる→そこの頭となぜか惹かれ合ってしまい、とストーリーだけ見たら立派な正当派ラブストーリーですが、一筋縄ではいきませんでした。理由は主にルシアの性格。この世界では珍しく、女だてらに医学に通じる<女医さん>ルシアが、揺れ動く恋心〜関係の問題を全て医学的見地から冷静に分析していく姿に……、ろ、ロマンのかけらもないよっ!ルシア、盗賊の中でなじみすぎっ!”ヘレナの身代わり”というポイントが微妙にすれ違う二人を演出し(こういうの大好き)、基本的にはちゃんとしたラブストーリーなんですがね……。
ルシアとオレグ関係以外はおいおいおい、と突っ込みたくなるくらいどうなったかよくわからないので微妙に消化不良です。ここまで放りっぱなしと言うことは、続きが出るとは思うのですが。かなり報われていないローアルさんが幸せになれたらいいなぁと思いつつ、続きが出る日をお待ちしております。
Jun/10/2007 ↑TOP

イシュターナの祝鐘

雨川恵/桃季さえ(イラスト)角川ビーンズ文庫bk1/amazon/boople

カストリア帝都に乗り込み、ユスティニアを奪還したアレクシードであったが、あとで再会することを約束し、二人は別の逃走経路をたどることにする。もうあと一息というところでルシウスに囚われたアレクシードであったが、彼を助けたのは意外な人物だった。

アダルシャンシリーズ最終巻。おさまるべくしておさまったような、よかったですなぁというラストでほっと一息でした。ハッピーエンドはいいですね。
最後まで進歩のないこの不器用兄弟めっ(国王とその弟)、というのはいつものことなのでこの際横においておきましょう。お父さん(カストリア帝国皇帝)が割と気に入っちゃったけれどこの人が一番狸だなぁ、と最後の最後で楽しませて頂きました。何事にも動じないパーフェクト皇太子ルシウスと皇帝のやりとりは(姫様関係を除くと)このシリーズ一番の見所かもしれない、と思ってしまいました。
そして、やっぱり姫さんは最後までかわいかったです。「ちょっとその先だよ、大事なのはその先(ゆさゆさ)」と、各務さんと同じく叫びたくなりましたが、そこら辺は脳内補完か(違)。4・5年後くらいの姫様とそのダンナ、見てみたいと思ったのは私だけじゃないと思います。ば、番外編を切実に所望……。
Jun/09/2007 ↑TOP
 『ユスティニアの花束

グランドマスター! 総長はお嬢さま

樹川さとみ/松本テマリ(イラスト)集英社コバルト文庫bk1/amazon/boople

ミトラーダ修練会に93年振りに姫総長が誕生した。修練会の若き武人ハルセイデスは<黎明の使節団>を率い、姫総長の世直しの旅を護衛するという大役を仰せつかる。しかし、当の姫総長・シーカは美少女なものの想像を絶する謎の性格の持ち主で、使節団の面々も一般市民から集められたからっきし使えない面々ばかり。前途多難な旅の始まりにハルセイデスは頭を抱える。

樹川さんのコメディータッチなファンタジーの新作、とってもよいですね。もうめちゃオススメ。
テンポの良い話の運びに、一癖も二癖もある登場人物の数々。人数は割と多いんですが(そして、女性は変な総長一人だ)、誰が誰だか混乱することは全くなくすいすいと読み進めていくことができました。そのマイペースな変人振りでハルさんを引きずり回すシーカと、引きずられまくるハルさんのやりとりは本気で面白いですし、ふと見せる彼女の本気(?)があの落差と相まって衝撃が大きいです(笑)。いろいろあってアホのフリをしているんだろうかと深読みしてしまいましたが、最後まで読むと彼女の地なのかなぁという気もしてきて……、ここまで謎なヒロインにはあまりお目にかかれないなぁ。過去の出来事から凍っていたハルの心がなんやかんやでシーカに溶かされていくというおいしい展開もちゃんとあったし。ここらへんも次回以降非常に楽しみです。
シーカの謎其の1はこの巻で明かされましたが、まだまだ謎に包まれたお嬢さまなので続きも楽しみ。ラブコメな展開が加速していくとうれしいです。
Jun/03/2007 ↑TOP

伯爵と妖精 花嫁修業は薔薇迷宮で

谷瑞恵/高星麻子(イラスト)集英社コバルト文庫bk1/amazon/boople

貴婦人の鑑と名高いオートレッド伯爵夫人の元で花嫁修業をすることになったリディアだが、訪れた屋敷ではなぜかメイドとして働くことになってしまう。これも花嫁修業の一環と頑張るリディアであったが、屋敷にはエドガーの婚約者を名乗る令嬢がやってくる。

今回もよいラブでございました。毎度のことながらご飯三杯は軽くいけるくらいの糖度でお腹一杯。
婚約したのはいいものの、今までそういう世界とは縁遠い所にいたために全ての出来事に戸惑うリディアと、何があっても彼女を守るというエドガーのお互いへの思いというかなんというかがにじみ出てきててですねぇ、シリーズ開始時からは考えられないほどのリディアの進歩ににへら笑いがとまりません(←このシリーズを読んでいるときは大概端から見たら変な人)。しかし、基本的なところは変わっていないエドガーなので「(他の令嬢を)口説かない自信がない」「もって3ヶ月」宣言や、主人に不審な目を向けるレイヴンなどは面白かったです。レイヴンの嘘をつけないが故の見事なツッコミはいつもながらにすばらしい。
直接プリンセス関係の事件は起こらないものの、次回に向けての布石は万端ですね。リディアの社交界デビューに伴いまた波乱がありそうですが、次も楽しみ。
Jun/02/2007 ↑TOP
 『伯爵と妖精 ロンドン橋に星は灯る

沙漠の国の物語〜楽園の種子〜

倉吹ともえ/片桐郁美(イラスト)小学館ルルル文庫bk1/amazon/boople

沙漠の地に水をもたらす奇跡の樹・シムシムが5年振りに種子をつけた。その種子を手に沙漠のどこかの街にシムシムの種を植えるという”シムシムの使者”に選ばれたのは、聖地カヴルで天真爛漫に育った少女ラビサだった。唯一の肉親である兄の反対を押し切り、使者として出立することを決めたラビサだったが、旅立ちの前日にカヴルが”砂嵐旅団”に襲われる。ジゼットと名乗る不思議な少年に助けられ、なんとか街を脱出したラビサは、彼と共に旅を続けることにするが……。

ルルル文庫新人賞の大賞受賞作品。恵まれた環境で天真爛漫に育った少女と、なにやらいろいろと秘密を抱えているであろう少年を軸にした物語。ラビサは前向きな元気な女の子で、世間知らずなところも「しょうがないなぁ」と思わせてしまうところもあり好感度高し。シムシムの樹と聖地カヴルの隠された過去がだんだんと明かされ、ラビサがその事実を受け止め、選び取った選択肢などは「この展開からいってこれ以外ないでしょう」というものなんですが、それまでに様々な人の葛藤を見てきただけによかったなぁと思えました。
確かに面白かったのですが、大賞受賞作品のわりにはちょーっと地味かなぁという印象を受けてしまいましたが、地に足のついた硬派な物語で安心して読める物語ですね。今後の作品に期待(是非とも、物語に華を……)。
Jun/01/2007 ↑TOP