2005年3月の本の感想
ゆらゆらと揺れる海の彼方4
近藤信義/えびね(イラスト)電撃文庫【bk1・amazon】
ローデウェイク福音王国として独立を果たし、いろいろと積み重なる問題を処理してるラシードの前に最大の難関が立ちはだかる。それは、国王の結婚という重大問題で……。
ラシードの嫁取り物語と、それに付随する幾つかの問題にバストーニュの内政問題が絡んでさあ大変なお話でした(一番大変なのは、クローデット姫(ラシードの婚約予定相手)のあまりにもの恥ずかしがり屋さん&おっちょこちょいぶりでした)。こういう展開大好きなので、途中の「食事中にはちょっと読まないでねー」という部分(苦手)を差し引いても大変堪能させて頂きました。戦闘パートよりもよほどわくわくしながら読んでいたというのは一体どういうわけでしょうか。
バストーニュの国内事情については、ちょっと何か弱いなぁ、わかりにくいなぁと感じてしまう部分があるんですが、それでも結構おもしろいのでこの先が楽しみであることはたしか。ラストがあの状況ですからねー、やっかいなことになりそう。
密かに気になるのはエミリアとシュニッツラーのお二人だったり。この二人は私の中では既にくっついているんですが、どうなるんでしょうかねー。エミリアには幸せになって欲しいなぁと思ってしまう次第であります。
ブラック・ベルベット 病める真珠が愛した司祭
須賀しのぶ/梶原にき(イラスト)集英社コバルト文庫【bk1・amazon】
ディートニア転覆を画策するキリは友人のロキシー、ファナとともにファウラーにたどり着いた。しかし、そこでいかにも怪しげな男に怪しげな場所に連れて行かれてしまう。なんとか振り切って当初の目的であるハル神父を捜すも、ファウラーで合流する予定だったグラハムと連絡がつかなくて……。
レインボウ氏に脱帽。あんた、「最高至上」におもしろいよ……。序盤の言動からただのおかしな人烙印を押してしまいましたが、終盤結構まともだったのに結構驚き(レインボウ氏に失礼だ)。
物語はようやく主要面子がひとそろいして一段落、といった所でしょうか。意外にお茶目だなと思ってしまったハル神父の他にも、ファウラーの実力者・シルヴァーナなどなど何を考えているのかよくわからないものの、素直になんかすごいーと思える人物が揃ってきました。B級映画のドタバタ的なノリやキリ達3人娘のやりとりが本当に楽しいです。
スカーレット・クロス 月牙の命脈
瑞山いつき/橘水樹・桜林子(イラスト)角川ビーンズ文庫【bk1・amazon】
ギブのヴァンパイアへの転化を防ぐ方法を探すため、ビル司祭と弟子の祓魔師とその≪聖なる下僕≫の一行は隠された魔女がいるというサンボルトス山脈に向かった。
セカンドシーズンのはじまりと言うことで、話は一気に全世界規模な事件に発展しているようです。≪悪魔≫を封じた≪聖櫃≫をあけるのあけないのと、スケールの大きな事件が大好きなのでドンぴしゃの楽しみな展開。新キャラのオウカさんは、結構好みの姐御さんタイプで気に入っております。しかも、かなり猪突猛進な所があるのが二重におもしろい。あの性格はいろいろとお得だな、と。
ギブの最後については、
あきさんと同じくお布団でごろごろする派(後書き参照)です。ギブとツキシロ、新規のウォルター、ついでにオウカさん関係もいろいろと先が楽しみ〜。
実際は後書き読む前からリアルに布団でごろごろしていたり。なんて作者さんの読み通りの読者なんだろう……
少年陰陽師 真紅の空を翔けあがれ
結城光流/あさぎ桜(イラスト)角川ビーンズ文庫【bk1・amazon】
前回の戦いで黄泉路をさまよった昌浩は命を得た代償として大切なものを失ってしまう。しかも、昌浩の知る物の怪とは違う態度をとられ、不安に駆られる時間を過ごすことになるが……。
あー、もっくんが。もっくんがやさぐれてしまうだけでこれだけ殺伐とした話になるなんて……。今回の癒しは昌浩兄の成親でした。やっぱお兄ちゃんはいいなぁ(短編の時からのファン)。
次の事件への小休止といったところのお話。昌浩やとある村の人々の「忘れられてしまう」ことの辛さが主軸の物語。やっぱり元気な昌浩ともっくんがいいなー、と痛感してしまう展開でした。
タクティカル・ジャッジメントSS 紅の超新星、降臨!
師走トオル/緋呂河とも(イラスト)富士見ミステリー文庫【bk1・amazon】
いつも暇な山鹿弁護士事務所に無理矢理押しつけられた事件は、安物の時計を道ばたで売りつけるという少女を更生させよというものだった。この事件が縁で妙な中学生にまとわりつかれることになった山鹿善行だった。
超新星って誰のことかな?と思っていたら皐月ちゃんのことでしたか。たしかに紅いですね……。まっかっか。中学生離れした言動がおもしろいですが、こんなのにまとわりつかれた山鹿氏も不幸としか言いようがないような……。一番おもしろかったのは『はじめてのさいばん』かな。脱力してしまうようなオチがよかったです。ライバルもいることですし、これは是非ともシリーズ化して欲しいかと。
タクティカル・ジャッジメント4 ろくでなしのリアクション!
師走トオル/緋呂河とも(イラスト)富士見ミステリー文庫【bk1・amazon】
とある依頼で悪徳商法に心酔している男に無理矢理足を洗わせた山鹿善行。しかし、その男が今度は殺人事件の容疑者となってしまう。しかも今度の裁判ではいつも堀内検事とは違ってキレのいい東ヶ崎という検事が相手となることになって……。
最初の悪徳商法の部分が非常におもしろかったです。なんかの教材につかってもおもしろいな、と思えるくらいに(笑)。
さて、今回は山鹿氏にライバル出現。今までと違ってなかなか自分のペースに持ち込めない山鹿氏はかなり焦っていました。似たもの同士(に思える)だから余計に先に進まないと言いますかなんというかで……。裁判長の胃にいつか穴あきますよ。いつも通りのあっと驚く大逆転、反則技で切り抜けるあの手この手(今回も前回同様にあの手はどうかと思いますが)、どうやってピンチを脱出するんだろうと楽しみながら読むことが出来ました。
しかし、このシリーズはヒロインの影が薄いですね……、いてもいなくても同じやんとか思ってしまいます。しかし、ラブ方面には期待してないんで別にこのままでもいいかと思います。
平井骸惚此中ニ有リ 其貳
田代裕彦/睦月ムンク(イラスト)富士見ミステリー文庫【bk1・amazon】
緋音の誘いで避暑のために那須に向かうことになった平井一家と弟子の河上君。緋音の知り合いである日下子爵の屋敷に滞在することになった一行だが、爵位にまつわる事件が起こり……。
ほぼ親公認の婿状態の太一と何かにつけて錯乱する涼ちゃんがおもしろかったです。もうこれ婿決定ですね。お調子者で少し情けないけれども頼られる存在でもある太一と平井姉妹のやりとりがほほえましくもあり、楽しくもありました。
さて、ミステリー部分。謎が謎を呼ぶ日下家の連続殺人事、実はあっけなく片づいてしまって、おー、と感心してしまいました。きっとこれは亡霊の仕業だっ!と一人で思いこんでいたんですが、ある意味その通りのカラクリだったかもしれません。探偵小説は奥が深いなーと思う骸惚先生の探偵小説観、次はどのような持論が語られるのかも楽しみです。
ゆらゆらと揺れる海の彼方3
近藤信義/えびね(イラスト)電撃文庫【bk1・amazon】
アールカヴ神聖国と戦うためにバストーニュ王国に援軍を求めたラシードだが、バストーニュは国内に大きな問題を抱えていた。ローデウェイクでは残ったジュラたちがラシードが援軍を連れて帰ることを信じ、アールカヴとの戦に備えていた。
わー、今回も新規でかわいい女の子がでるっぽいー(口絵カラーより)と妙な期待をしながら読んでました。ははは、彼女には騙されましたね。作者の思うツボ……。
冥海での大規模戦闘がメインの第3巻、よくわからんけどすごい迫力ーと感心しながら読んでいました。さくさくと戦闘は進んでいき、名も無き人から名のある人までさくさくと退場していく展開にドキドキしながら楽しめました。しかし、火薬庫に追いつめて〜という部分はちょっと不用心すぎやしないかと思ったりもしましたが、そこらへんは流し読みで。
で、謎に包まれていたノウラの正体。本人談ではないもののひとつの仮説が立てられ、今のところそれ以上に有力な説も見あたらないので今のところはアレなんですよね。個人的にはもっと他(まー、よくあるパターンでの想像)を考えていたのでそっちの方向から来るとは、とちょっと驚き。次以降、舞台がもっと広がっていきそうなので楽しみです。
しかし、表紙のラシード兄者……、よくよく見てみるとそこら辺の屋台のお兄ちゃんとか怪しげな情報屋とか言われても違和感ないようなイメージ……。
平井骸惚此中ニ有リ
田代裕彦/睦月ムンク(イラスト)富士見ミステリー文庫【bk1・amazon】
時は大正、大学生の河上太一は探偵小説家の平井骸惚に弟子入りしようと平井家に押しかける。弟子入りは果たせなかったものの平井家に少しの間居候することに成功した太一は、ある事件の謎を解けば弟子入りを許可すると言われて……。
弟子入り志願書生の太一君基本的には情けない”尻に敷かれる”タイプで、志願先のお嬢さんの涼ちゃんが気の強い女学生さん。いかにも期待できそうなこの二人のやりとりににやにやしそうになりながら読んでいまい、ごちそうさまでした。骸惚先生の編集担当で、太一君たちと一緒に事件に挑むことになる緋音さんもかっこいいタイプの女性でしたから読んでいて非常に楽しかったです。いつもは情けない太一君ですが、時折ちらりと見せるかっこよさがよかったです。骸惚先生もとらえどころがなくてひょうひょうとしている割にはいいとこ取りでした。
謎の部分はうーんと思う面もあるんですが、トリックよりもそれに取り組む太一君と先生の心情が印象的な作品でした。
風の王国 竜の棲む淵
毛利志生子/増田恵(イラスト)集英社コバルト文庫【bk1・amazon】
唐からようやく帰ってきた宰相ガルと共に、リジムは翠蘭を連れて父である大王ソンツェン・ガムポの元に向かうことになる。途中立ち寄った小国コンポでは、唐の公主を手に入れる為に起こされた松州での戦で婚約者を失った王の一人娘がいて……。
今回の二人の愛の障害は記憶喪失というわけで、魔術によって翠蘭が吐蕃での記憶を失ってしまう上に、リジムの息子ラセルが行方不明になるという事件まで起こってしまうお話でした。ガルはガルで何を考えているか分からない上にいろいろと翠蘭に揺さぶりをかけてくるし、妻と息子は大変だしでジムにとっては心休まる暇がありません。大王というラスボス(違う)に会う前からこれでは果たして次はどんな事件が起きることやら、楽しみです。
記憶喪失のお陰の初心に戻ったラブ要素を微妙に感じつつ、楽しく読むことが出来ました。やっぱ、いいですなー、こういうお話。しかもラセルとその犬がかわいすぎるので一粒で何度もおいしいお買い得感。
天の階 竜天女伝
森崎朝香/由羅カイリ(イラスト)講談社X文庫WH【bk1・amazon】
男児に恵まれない皇帝は、「世継ぎを産む」と仙人に告げられた条件に合致する10人の娘を国中から集めた。生まれも育ちも全く違う娘たちは、後宮で栄達を臨む者もいれば、皇帝に相手にされないことをいいことに趣味に没頭する者もいた。
前作があまりにもツボだったので期待しておりましたの新作。前作のだいぶ後が舞台で(物語上関係はない)、中国風の後宮等々が舞台の少々ファンタジックな仕上がり。いろんなお約束がてんこ盛りのボリュームのある内容となっておりました。
結論から言いますと、それなりに楽しめたんですが前のような「直球ストレートっ!」は感じられなかったのがちょっとだけ残念。複数の女の子にそれぞれスポットが当たっているので視点が定まらず、腰を落ち着けて読めない(この物語の長所といえば長所なんですが)。しかし、主人公の月季(上のあらすじには姿形も出てこない)が出てきてからはすごくノリノリで読めました。いろいろと謎を抱えて腕に覚えある女の子の一人旅に途中でいきなり湧いて出てくる謎の気のいいお兄さんというこの王道さが素敵です。月季の秘密に関しては、読んでいるときは唐突だと思ってしまいましたが、いろいろ鑑みたら別に唐突でもないですねー。しかし、もうちょっと途中で小出しにヒントが欲しかったかも。
後宮サイドのお話では海霞と皇太子のところが好きです。それにしてもしゃくに障る皇帝だった……。あそこまで殺意が湧きそうになった陛下というのも久しぶりだ。スリッパでスパーんとぶちのめしてやりたい。
伯爵と妖精 プロポーズはお手やわらかに
谷瑞恵/高星麻子(イラスト)集英社コバルト文庫【bk1・amazon】
青騎士伯爵を婿に迎えようと、妖精女王からの遣いがエドガーの元にやってきた。しかし、遣いはエドガーに贈るはずの”月”が何者かによって盗まれてしまったという。同じ頃、リディアの前には彼女に求婚する妖精・ケルピーがはるばるスコットランドからやってきた。
このシリーズ大好きです。そして今回も最高でした。ある意味悶え死ねる……。
毎度のことながらのエンジン全開の口説き魔伯爵、エドガーとの攻防に心を乱されるリディア、この二人の関係に新しく対抗馬(本気で馬……?)までもが出現。この三者の関係がオトメゴコロをくすぐります。エドガーとリディアの攻防も好きですが、エドガーとレイヴンのかみ合っているようでかみ合っていない会話も大好きです。
今回の事件の落とし方は……、やっぱりエドガーは詐欺師だよなーと妙に納得してしまいました。個人的にはあまりにもツボすぎてうれしすぎますが。プリンスとの対決に向けて駒を進めているエドガー、もうそろそろ本格的な妨害工作があるんじゃないかな、と少し期待しております。
-----
というわけで、現在絶賛布教活動中のお薦めのこのシリーズ、私の記憶ではコバルト本誌に2回、リディアが主人公(スコットランド時代)の物語が掲載されたと思います。家にあるコバルト(毎回買っているわけではない)を漁ってみると……、2話とも発見。
・2003年8月号 『銀月夜のフェアリーテール』
・2004年2月号 『雪水晶のフェアリーテール』(ケルピー君登場の回)
ハルシフォンの英雄
雨川恵/桃季さえ(イラスト)角川ビーンズ文庫【bk1・amazon】
隣国との間に領土問題が勃発する中、国王であるユーゼリクスが倒れてしまう。国王不在に揺れる王宮を支えるため、アレクシードはとあることを決意する。
ユスティニア姫はかわいいですね。今回はメインに絡んでこず、物語の癒し部分を一手にになっておられますです。
で、本筋の話。やはりというか何というか、表紙のお二人さんがメイン。兄弟の絆の物語でした。二人ともお互いの為に自分を犠牲にするタイプで、しかも今現在は間違いなくすれ違っているというところが少し切ないですね。二人とも本当に不器用と何回つっこみを入れたくなったことでしょう。ある意味、じれったいことこの上ない。
というわけで、次も楽しみです。この領土問題がどう片づけられるかが気になります。続きも出てくださいねー。
と、それなりにおもしろいんですが、イラストが……。前はそんなに気にならなかったんだけど、今回これだけは。ユスティニアが幼稚園児に見えて仕方ありません。あれはどう見ても10才じゃない……。
彩雲国物語 漆黒の月の宴
雪乃紗衣/由羅カイリ(イラスト)角川ビーンズ文庫【bk1・amazon】
様々な妨害を切り抜けて何とか金華にたどり着いた秀麗一行は州都入りを目指して着々と準備を進めていた。
茶州がメインなのであの人とかこの人とかの出番がアレなのは分かりますが、非常に寂しかったです。王都組、何してたんだろう(遠い目)。メインキャラなのにばっさり切ってしまうというのはすごいと思うんですが。それにしても、今回は女性陣が非常にパワフルなお話でした。すごそうだなーと予想していた英姫もおっとりおとなしめだと思っていた春姫もこれがまた。かっこよかったですよ。そしていつも通りさばさばはっきりの秀麗も気持ちよかったですしね。
しかし、正直言って最後まで次男坊がよく分かりませんでした。似ているという描写が随所に見られたんですが、やっぱり主上とは全く別だと思うんですよね(主上が好きで次男坊があまり好きでない人間の戯言ですが)。
で、読みながら思ったのは野生児二人組とか二人に心酔された人とかお師匠様とか、常人離れしている人がもはや人間ではないような気がしてしまいました。怖い世界です……。