2006年5月の本の感想
抗いし者たちの系譜 虚構の勇者
三浦良/KIRIN(イラスト)富士見ファンタジア文庫【bk1・amazon】
「前魔王を倒した勇者が魔王になったのなら、現魔王に対する勇者も存在するはず」―差出人不明の書簡により、国の重鎮たちは動揺する。勇者候補として名があがった前魔王ラジャスに監視をつけるため、宰相スキピオはラジャスを王城に招くという策をとることにするが……
ラブはまだかーと思いながら読んでいた続編。とりあえずラブはあってかなりラブくていい感じでしたが、ラジャスとサラのあの性格では「うおー、ラブ」というラブにはならないので悔しいというかなんというか(この物語にそれを求めるのは間違っています。何せ謀略ラブストーリーですから)。
今回も前回同様、どうなるんだろうどうなるんだろうと先が大変気になる構成で、そうくるかってな展開がかなり満足なんですけどやっぱりサラのお気に入りの侍女は……。語尾が全部母音(小)は嫌いなんだっ!本気なのか作っているのかはわかりませんが(そしてたぶんかなりの確率で本気だろう)、もしかしたらこの物語の中で一番の策略家はナナのではないかという気までしてきた新刊でした。
あ、でも今回初登場のティアさんは好きー。地味に応援しております。
黒き河を往け
藤村脩/堤利一郎(イラスト)ZIGZAG NOVELS【bk1・amazon】
19世紀のロンドンの下町で探偵事務所を営むラウディは<術式>と呼ばれる術を使い、失せ物探しを得意としているかなりやる気のない探偵だった。明日のパンを心配する同居人の姪っ子シルーズにどやされながらも、事務所に舞い込んだ依頼を請け負うことになるラウディだが……。
ネットでの投票で見事単行本化が決定した作品、この作者さんのオンライン小説はとある中編ラブコメを読んだことがありまして、なかなかにツボにはまる作品でしたが(詳しくは今は更新停止中のオンライン小説紹介のページに)これまたなかなかによいものです。三つの事件を描いた中篇集で、どの事件も最後は少しほろ苦いものが残る結末でした。
さて、何がよいかって、生活力と好奇心に溢れるシルーズちゃんがかわいくてっ!ラウディのやる気のなさとの対比がおもしろかったですねー。あとは、なんやかんやで因縁のあるロンドン警視庁の刑事さんとかもいい味だしていました。あらすじを読む前に「黒き河→(たぶん)テムズ→(そしたら)ロンドン!」という妙な連想ゲームでそこはかとなく期待してみましたが、期待を裏切らないおもしろさだったと思います。
紅牙のルビーウルフ3 西の春嵐
淡路帆希/椎名優(イラスト)富士見ファンタジア文庫【bk1・amazon】
国の立て直しを賭けた大事業の下見のために、ルビーウルフはジェイドたちと西域・エインフィルの視察に出かけた。エインフィルの領主ハリスの暖かい歓待を受けたのも束の間、都に帰るという段階になり突如ジェイドとハリスの娘・クラリッサが姿をくらます。二人は駆け落ちをしたのではないかという周囲の懸念がある中、初めてジェイドと離れることとなったルビーウルフは……。
今回もほどほどに楽しくなる展開のてんこ盛りに思わずにやり。いろいろと甘いやろそれ、と思わず突っ込みそうになることも多々ありましたが、このシリーズの醍醐味はそこら辺にはないので(個人的には)全く問題ありません。
今回は「離ればなれになって気付くあなたの大切さ〜」というところがメインテーマ。揺れに揺れるルビーウルフがかわいくてですね……。あとは二人の鈍感さがなんとも。ルビーサイドではケーナ(雌狼)に、そしてジェイドサイドではクラリッサに思わず同調してしまいそうになりました。今回からたぶんレギュラー入りの双子の魔導騎士見習いもなかなかにかわいらしく、今後の成長が楽しみです。
Dクラッカーズ 1.接触-touch-/2.敵手-pursuer-
あざの耕平/村崎久都(イラスト)富士見ミステリー文庫【bk1・amazon】
アメリカから帰国した梓がなんとか日本の高校生活に慣れはじめた矢先、級友が投身自殺を図った。”カプセル”と呼ばれるクスリに原因があり、幼なじみの景がその売人かもしれないという話を聞いた梓は、独自に調査を開始するが……。
ずいぶん前に
あきさんに絶賛お薦めされて、ようやく読み始めましたのDクラッカーズ、なんと富士ミスの刊行ラインナップだったんですねー。富士ミスにしては結構謎解き部分があると感じる私はきっと負け組です(ミステリーに関する判断基準が緩すぎるので)。1冊目は若干乗り切れなかったのですが、2冊目からなにやら大変はまりそうなおもしろさを感じ始めましたよ。
さて、内容ですが。これはなかなかによい幼なじみモノですか?梓は景のことを気にして心配しているけど、諸事情によりできるだけ梓を関わらせないようにしつつも彼女を守ろうとしている(ように感じる)景、この二人の微妙な距離感がいいですね。べったりするだけが幼なじみではないですよと言うことを改めて実感です。他には高校生探偵千絵がパワフルで読んでいてすかっとします。若さ故の暴走気味なところは見ていてハラハラというか、イライラもしたりしますが(笑)。
カプセルをめぐる組織と組織の対立に、一匹狼のウィザードという構図が今後どう変化していくかが楽しみです。ドラックを使って悪魔を呼び出して戦うという大変不健康な戦闘シーンでここら辺はあんまり理解したくない気もしますが、あまり深く考えずに続きも読んでみたいと思います。
瑠璃の風に花は流れる 黒の王太子
槇ありさ/由貴海里(イラスト)角川ビーンズ文庫【bk1・amazon】
隣国・黒嶺の侵攻により滅びた朱根国。朱根の王女・緋奈は王族として果てようとするが阻止され、黒嶺の王太子の許嫁として黒嶺に連行された。
ビーンズ文庫編集部の春のお薦め第二弾。申しわけありませんが、編集部のお薦めはもう信じないでおこうと固く誓いました。
別につまらないことはないんですが、なんといいますか、今回も4月のお薦め同様非常に微妙な印象を……(前回よりはマシですが)。全体的にどこかで見たことのある展開でしてねぇ。どこかで見たことのある展開もおもしろければ「王道」といって絶賛できるんですが、今回は個人的に絶賛はちょっと難しいかなぁ。敵国に嫁ぐなんてもっとどろどろとしていもいいのに(実は期待していた)、ちょっと肩すかし気味。いろいろとすごくツボに入りそうなポイントはあるのに、もったいないっ!と思わずにはいられないてんこ盛りぶりなんですよ〜。
ヒロインが元気で頑張る姿は好感度持てますが、しかし、よく考えてみると流されているだけという気もしなくない。もっと主体的に物語を引っかき回す王女様ならよかったのですが。思いっきり続きそうな気配がしますが、出てもパスかな……。
ノルマルク戦記2 異端者たちの軍旗
赤城毅/小河原亮(イラスト)集英社スーパーダッシュ文庫【bk1・amazon】
軍団を組織し、兄皇子ベルモンの元に駆けつけることになったユリアスは、騎遊民の助力を得ることに成功した。
がっちり硬派な戦記物、今回はユリウスが戦力を手に入れて兄の軍に合流しようとするところまでが描かれていました。騎遊民軍団組織の場面など熱くてしびれますねっという場面が多くて楽しかったですねぇ。
それにしても、主要登場人物が一部を除いてどうも病んでいるっぽいのが痛々しいです。正気と狂気の狭間をゆらゆらーという印象を強く受けました。デミアンと姉上のくだりなどかなり好みの展開ですが、こちらもきつい結末が待っていそうです。唯一の心のオアシスはフィンレイ姫です。
BLOOD+ ロシアン・ローズ
漲月かりの/高城リョウ(イラスト)角川ビーンズ文庫【bk1・amazon】
ロシア革命間近の首都ペトログラードにやってきた小夜とハジ。DIVAを倒すために旅を続ける二人は、ロシアで”紅い盾”のメンバーとして活動を続ける4人の青年と共に翼手に関する手がかりを集めようとするが……
TVアニメのノベライズとして、小夜とハジの過去の話を話を描いた作品。実は地味にアニメを見続けているのですが正直言ってアニメよりかなりおもしろいと思いました(すいません……)。作者さんがちょこっと気になる方だったということもあり、えいやと読んでみて大正解でした。
何がいいって、小夜とハジの主従ラブです。全てはラブ。アニメも件の要素は過分に含まれているのですが、なにぶんあっちは邪魔者が多いのに対しこっちはハジしかいません。これはもうピンポイントでラブです。お腹一杯。しかも、こちらのハジはヤキモチやいてピロシキを大量生産するなどのかわいらしさ満点で読んでいて楽しくてですねぇ(半分病気)。小夜とハジの行方を見守り、ハジの万能主夫ぶりを拝むためにも続編購入決定です。
と、かなり浮かれていますすが主従モノがお好きならかなりお薦めの作品だと思われます。独立したひとつの話として楽しめるので、アニメを見ていなくてもほとんど問題ないように感じます。
玄天の花嫁 嬌鳥待望
森崎朝香/由羅カイリ(イラスト)講談社X文庫WH【bk1・amazon】
その美貌と琴の腕が周辺に知れ渡っている琉国の公主・綺嬌は、兄王と国のために隣国・エンの年の離れた王の元に嫁ぐことになる。あまりにもの国の状況の違いと王の横暴な振る舞いに愕然とする綺嬌であったが、琉での最後の宴で出会った楽士・玄との偶然の再会があり……。
「花嫁」シリーズの最新刊にしてシリーズのひとまずの最終巻らしい『玄天の花嫁』、今までの作品とは違い他国に嫁いだ公主様とそのダンナの恋の行方は……、というよりむしろ公主様の貞操の行方をはらはら見守るタイプの物語でした(公主様の体の弱さと王の高齢等々の様々な要因から事なきを得たのは正直本気で安心してしまいました)。公主の健気さに早く誰か助けてやれよと思わずにはいられないことは保障できますね……、これは。
今回の物語は心の涙で前がかすむことはなかったのでその点は安心して読めますが、全体的何となくもの悲しい感じがしましたねぇ。前二作に比べたら比較的ハッピーエンドですが。しかし、公主と玄との”音”での会話シーンなど、いいなぁと思える場面も多く、個人的には好みのお話でした。他には、初代の二人の登場にはちょっとにんまりしてしまったりと、あの時のドキドキを少し思い出してしまうようなおいしい要素もちょこちょことあったりなかったり。