2002年5月の本の感想
花雪小雪 −素足の舞姫−
平安末期、京の都で当代一の白拍子として名を馳せていた静御前。彼女は宴の席で出会った義経に強い嫌悪感を覚える。どうやら彼女を気に入ったらしい義経は、戦に勝ったら自分の元に来るよう、静に賭を迫る。
今まで私が読んだことのある静と義経のラブロマンスといえば、出会ったときから「あなただけ〜」という展開だった(もちろん、読んだ絶対量は少ないでっせ)のでちょっと新鮮。お話のからくりも、「おお、なんかすげぇ」と思うようなどんでん返し(かな?)みたいなのがあって、最後まで結構わくわくしながら読めました。難を挙げれば、<→狙ってるかもしれんけど、その人が出てきた時点で、「ああ、こいつ敵」と分かってしまうとこ←>と、<→なんだか断片を次々読んでいるような気分だった←>というところくらい。
闇の中の眠り姫 レヴィローズの指輪
指輪の持ち主としての自覚に目覚めたジャスティーンの前に、第四の候補者が現れる。そして、その候補者を見たレンドリアの様子も変。不安に駆られるジャスティーン。しかし、シャトーと(今回だけは利害の一致を得た)ダリィとという強力な味方を得て、なんとか謎の候補者の秘密を暴こうとする。
レンドリア、はっきりせぇ!と心の中で叫ばずにいられなかった今作。いつも飄々としていていい加減なレンドリアの、訳わからなさ加減が一番。さっさとジャスティーンと二人して、理解し合えたらいいのにねぇ。
第四の候補者というのが、そう来るか、という人。力を持つ「一族」たちの理不尽な行動に振り回されて、ある意味一番の被害者は彼女だったのかもしれません。最後の「それが彼の優しさ」(とか言うような…、うろ覚え)のセリフには、少しジンときた。でもって、敵に回せばそれはそれでやっかいだけど、味方は味方でこれまたやっかいなダリィの言動がたくましくて良かったかも。
ジェリーブルーの宝玉 レヴィローズの指輪
「レヴィローズの指輪」の主となる契約を果たしたジャスティーンの元に、「水の一族」の伯爵から求婚の手紙が舞い込む。一も二もなく断ったジャスティーンに代わり、次はシャトーに同様の求婚手紙とともに「ジェリーブルー」の宝玉が届く。求婚を拒否しないシャトーに代わり、ジャスティーンとダリィは、レンドリアとスノゥを引き連れて伯爵の元に乗り込む。
指輪の持ち主受難編第一弾。ジャスティーンが魔力を持たないが故に、いかにレヴィーローズが大変な目に遭うか、という話かなぁ…。中盤までは軽めの話だったのに、物語の確信に近づくにつれて急に重くなってしまって、「ギャグじゃない…(ギャグを期待していた)」と、少々期待はずれ。変人伯爵とそれに振り回されるジャスティーンとダリィがおもしろかった。あとは、ダリィに虎視眈々と狙われる哀れなスノゥとか。最後のジャスティーンの決意、んでもって、レンドリアとのやりとり、どっからどう見ても、世界が見えてない愛し合うふたりじゃないですか。状況さえ無視すれば。
レヴィローズの指輪
両親を早くに亡くし、下町で天涯孤独に生きてきた16才のジャスティーン。ある日、彼女の元に叔母の代理人を名乗る人物が現れ、ジャスティーンは叔母の元に向かうことになる。しかし、叔母の態度は冷たく、ジャスティーンは叔母の目的も分からぬまま、謎に満ちた城での生活が始まる。
踏まれてもただでは起きない、たくましいジャスティーンの性格がおもしろかったですね。単語でしかしゃべらないシャトーとか、生まれついてのお嬢様ダリィとか、かわいい女の子揃いでこれまたいいです。謎の幽霊の彼の性格も、おっとりしすぎて素敵です。最後の方のジャスティーンと彼とのやりとりは、状況さえ無視すればめちゃくちゃこっぱずかしいラブラブモード全開、とあえてゆがめて読む方法もありますが、状況が状況ですからね…。普通ににおもしろいのでは?ただ、<→指輪を手に入れるために、街を火事に巻き込んだダリィの行動と、その後の彼女の開き直り具合については首をかしげる必要もありますが…←>。
いわゆる、物語の王子様が、典型的な「王子様(はぁと)」という人じゃないのがポイント高い。
(もちろん「王子様(以下略)」も好きですけど)
牡丹の眠姫 / 風の娘 −崑崙秘話−
飛行機が事故に遭い、気がつくと内家摩耶は古代マヤ文明の都市国家のひとつの巫女姫として目覚めた。価値観の違いにとまどいを覚えつつ、摩耶は自分の前世である”マヤの巫女”の人生をたどることになる。
構楽しめました。前世の記憶と、現代の価値観を持ち合わすようになったマヤのジレンマというか、とまどいを受け止めながらもだんだん強くなっていくところはかっこよかったかも。特に、最後の方でどんどん改革を進めていくマヤの姿は”父親”の名残があったかと。
マヤの心の成長場面はよかったかと思うのですが、恋愛方面については少し書き込みが足りなかったかと。ふたりのええ男に惹かれるマヤ、でもって唐突なクライマックスからエンディング。なんちゅーか、はっきりしないというか、煮え切らんとういうか。で、結局?と言う感じで…。最後もイマイチよう分からんかったし(読み込んでないせいかもしれないけど)。
牡丹の眠姫−崑崙秘話− / 風の娘−崑崙秘話−
紗々亜璃須・講談社ホワイトハート文庫
悪の限りを尽くす妖怪・狐精を討伐するために人界に降りた瑞香と揚ゼン(漢字がでない)、ついでにナタク(漢字が…)。圧倒的な力を前に、奮戦するも、狐精の罠により、瑞香が戦闘不能に陥ってしまう。
この2冊を読む前に、こちらの不注意で物語のネックになるネタバレを知ってしまったので、とても残念な切ない思いをしてしまった。でも、それはそれでおもしろかったけど。前に、あまりにも達観しすぎてる瑞香が気にくわない、とかなんとか言ってたわたしですが、今回はそういうこともなく、物語もクライマックスということで楽しめました。公主さんたちが皆さんがんばっていて、かわいい女の子がいっぱい出てくる話はいいなぁ、と思いながら読破。一冊目では出番が少なくて寂しかった華林の出番も多かったし。華林と楊ゼンと青竜王の三角関係話が読んでみたいとも思ったのですが、それは実現しないようで少し残念。前の『
沈丁花の少女』と合わせて全三巻、きれいにまとまっていて良かったです。
真緋色の檻(前編) 有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険
衆人環視の中、熱烈なラブシーンを披露してしまったために、フェリックスは無期限の謹慎処分を言い渡される。そんなフェリックスに、デローリエ男爵はコラリーと正式に婚約するように迫るが、極度の人間不信であるフェリックスは頑なに拒否。彼の態度に業を煮やしたコラリーは、彼の行方不明の母親を捜し出すと言い出して…。
(コラリー以外のことに関しては)生けるサイボーグの称号を与えたいフェリックス君の、こじれた家族関係が明かされる。サブタイトルとも言える「緋色の檻」というものがなんなのか、最後の方で明らかになるんですけど、思わず「おおっ」と感心してしまった(お手軽な人間なので…)。フェリックスの心の闇の部分が大きくクローズアップされていて、内容は濃いですねぇ。「クライトンの呪われた血」という、いかにも訳ありそうなキーポイントそうなエドワードの言葉。これまたおいしいところで終わっているので、早く続きが読みたい。
第61魔法分隊
王都からやってきた一等契法士ロギューネ。彼の新しい赴任先は、のどかな片田舎カーライルだった。そんなのどかな田舎がある一方、王都では「凍土緑地計画」なるものが着々と進められていた。
あらすじが、これまた難しい。久しぶりな少年向けレーベルからの一冊。おもしろかったです。魔法の仕組みとかちょっと特殊でして、漢文っぽい。キャラがいいですね。かわいい女の子たち、そしてそれなりにかっこいい男の子たち。主人公のロギューネの空回りの愛が何とも言えず…。それぞれが、最後に何かを掴んで成長する、という部分もポイント高し。ストーリーも、何気ない伏線があとあとつながっていくので読んでいて楽しかった。いったい、あいつやそいつは良い者なのか、悪い者なのか、どきどきしながら読めるわけです。<→とくに、つかみ所のないニルス隊長がお気に入りだったので、彼の謎の行動が気になったわけです。←>
まだ、問題の序章部分。村を後にした彼らが、どのように立ち向かっていくのかが楽しみです。
サン・フロリアヌスの騎士 〜白い花舞う村〜
13世紀、イタリアはフィレンツェ。大商人の娘ヴィオラは、不細工な貴族の子息(ヴィオラ予想)との結婚話が進められていることを知り、御者のディーノじいさんをだまくらかして、あわてて家出をしてしまう。道中、怪しげな男に襲われたヴィオラは、通りがかった村の青年に助けられる。
おおっ、コバルト文庫〜!!《読み終わった心の第一声。もう、<→あらすじだけで後が予想できてしまうほど←>コバルト文庫。こんなストーリー展開は、わたくしの大変好むところであります。
騎士団の、日々ののどかな日常とかもツボ。サブキャラも味のある人が多いですね。「さくらんぼ騎士団」とあだ名されるにぴったりな、のほほんとしているのに、実のところはかなりのやり手な団長さんとか。いや、もちろんクラウディオも大好きです。わたしの王子様リストに一名追加です。ヴィオラも元気で前向きで、好きなタイプ。
展開が少し読めてしまうので、そこに不満を感じる人がいらっしゃるかもですが、わたしは甘いやつなので満足。「新シリーズ」と銘打ってあったので、続くのかな?続いたらうれしい。今回はちょい役だったヴィオラの兄ちゃん(名前失念)も、結構よさげ。次回に期待だ。
幽囚の城 シメール・マスター
鷹守諫也・角川ビーンズ文庫・本体457円・【
bk1】
人喰いの姫があるという伝説のある<人喰いの森>の城。その伝説の城に、仕事の関係上うっかり迷い込んでしまった幻獣使いのラズ。彼が城で出会ったのは、不思議な美女キリエと、彼女を守り続けている青年騎士リオンだった。
<人喰い姫>の伝説と、その真相が涙を誘う。暗い雰囲気の物語だけど、ラズの明るさで沈みきった話でもないし、ここら辺のバランスもよい感じ。神様とか、国とかの設定もしっかりしていて、読み応えあり。クライマックスまでズズンと止まらずに読む、という種類のお話でなかったけど、上っ面だけのファンタジー、というものでもないので、最後まで楽しく読めました。最後はとりあえずはさわやかな終わり方なんだけど、エピローグでなにやら雲行きが怪しくなってますね。ちょっと続きが気になるかも。
サンクトゥスは歌えない 名前のない少女
近未来、東京湾の人工島ヘブン。警察代行エージェントであるHYPEに「身売り」をさせられてしまった天馬。HYPEには若いながらも、凄腕美女のエージェント・パピオンがいた。謎に包まれたパピオンに、天馬は興味を持つ。天馬が追う連続殺人事件と、パピオンが追う少女誘拐事件はどこか関連があるようで…。
ビーンズ文庫の新人さんのデビュー作。(わたしが言うのもなんですが)やっぱりちょっとまだまだ発展途上のような。なんつーか、読みにくいんですわ。普通にヤマもあるし、ちょっとした伏線もあるしでいいんですけど、何となく(たぶん、場面転換が多すぎる(とわたしは感じた)のと、空行の使い方がわたしと合っていなかったんだと思う)。ついでに、天馬があんまりかっこよく思えなかったから、はまりきれないと言うかなんというか。
内容はですね、謎の美女エージェントというツボを直撃しておりまして、よいですね。いろんな国が混じって、何とも無国籍なところが舞台ですが、そこら辺をもうちょっと感じさせてくれる雰囲気だったらもっとよかったかも。
同じような雰囲気を持つものとしては(ちゅうか、舞台設定結構似てるな…)『
摩天楼ドール』を思い出しました。それにしても、きらびやかな挿絵だった…。続きも機会があれば読もうっと。
イズァーカ商会へようこそ
「人材派遣会社」のイズァーカ商会。そこのでチームを組んでいるカリン、ラジーク、キース。彼女らが名指しで指名された仕事は、どうやらカリンの過去と関係があるようで…。
また、赤い人かい!!前田さん、赤い人が好きだなぁ。単発のギャグものらしいので、続きがでないといって嘆く必要がないので、安心して読めるかも。そこそこおもしろいけど、わたしの場合、この人のシリアスものの方が好きなので、ちょっと残念に感じた。キースと聞くと、某黒魔術師物語に出てくる、変態執事のイメージがあって、この物語のキースについてはうーん、文体がちょっと合わなくなってきたかも。とにもかくにも、破妖、終わらしてください(切実)。
電脳のイヴ
ヘルメットをかぶることでバーチャルリアルゲームを体験できる時代。麗子は、インターネットで参加できるRPG(オリオンクエスト)に夢中になったいた。そこでできた友達のエヴァリン(香港人)が謎の死を遂げる。彼女の死の手がかりは、オリオンクエストにあると見た麗子は、もうひとりのネット上の友達・韓国人のジェニーと二人で原因究明に乗り出す。
なかなかよろしいのではないかと。近い未来に起きそうな、そんな題材だし。今の言葉で言うと、ハーフである麗子の「自分探しの旅」と言えないこともないし。真っ正面からその問題を描いているところは好感がもてました。エヴァリンの死の真相については、かなりどきどきしながら読むことができました。
沈丁花の少女 ―崑崙秘話―
仙界で仙女の修行をしている瑞香。自分の居場所に疑問を感じた彼女は、他の世界への憧れを胸に日々を過ごしていた。師匠がいない間に、人界に冒険にでた彼女は、偶然目撃した妖怪に強い恐怖を感じる。
崑崙シリーズの、どうやら本編らしい三部作の一作目。前の3冊(『水仙の清姫』『
寒椿の少女』『
此君の戦姫』)の人物がいろいろ出てきて、思わずにやりとしてしまった(そりゃ、同じ崑崙山周辺を舞台にしてるんだから、当たり前といえば当たり前だ)。最強仙女の華林公主が呪いを受けてしまっているので、出番がほとんどないところが残念。
主人公の瑞香の成長物語と言えるんだろうけど、分別くさいというか、達観しているというかで、あまり好感は持てなかった。
薔薇王の時代 ・ 偽りの薔薇は咲く ・ 不滅の薔薇
ゆうきりん・集英社コバルト文庫
「薔薇の剣」シリーズ、最後の3冊。スターリングの元に届き始めたロザリオンからの生存を伝える手紙。クラウスとエナの再会。理想の国を築くために作られ始める「神鉄」。決別したままのスターリングとクラウス、二人の再会は…。
最後の最後はとりあえずハッピーエンドでしょうか?ここまで来るのに、スターリングはたくさんの犠牲を払ったなぁ、と、読み終わってから改めてしみじみと考えてしまいました。最初から最後まで健気だったロザリオンがやっぱりよかったな。
いつも読んでいる本と傾向が180度くらい違うので、途中多少疲れてしまいましたが、たまにはいいか、ということで、この本の感想を閉めさして頂きますm(__)m