2002年6月の本の感想
白い夜
紗々亜璃須/氷栗優
(イラスト)・講談社ホワイトハート【
bk1】
19世紀フランス。「雪の精霊」といわれるほどの美貌を持つ美しいく若い公爵・シャルルは、自分の運命を変えた吸血鬼に復讐を誓っていた。そして、ある日夜会で出会った少女は、その吸血鬼の娘だという…。
今までの作品とはひと味違った雰囲気。フィリップ(吸血鬼)のリースリングへの愛情が、なんだか切ないな。果てのない命を持つからこその苦悩というかなんというか。そして、フィリップに仕込まれていたとはいえ、シャルルのリースリングへの思いもたぶん本物なのだろう。どちらかといえば暗い上にラストも切ないのです。シャルル君はあの後どうするんだろう、とふと考えてしまう。
それなりに楽しめた一冊。私としては、彼が出てくるだけで話が明るくなってしまうポール兄貴がお気に入り。<
江のざわめく刻 / 二龍争戦〜星宿、江を巡る〜 / 鳳凰飛翔〜華焔、江を薙ぐ〜
朝香祥/桑原祐子
(イラスト)・集英社コバルト文庫・【
bk1】
孫策亡き後、東呉を引き継いだ孫権。兄の面影を感じる周瑜にとまどいを覚えつつも、天下を目指して国を整えつつあった。そして、東呉には劉備の使者として諸葛亮が同盟を結ぼうとやってきた。圧倒的な曹操軍と全面抗戦に望むか、和睦を結ぶか。孫権の下した結論は…。
あの、三国志でも一番の興奮ポイント、赤壁の戦いですよ!1冊目は、孔明さんと周瑜の腹芸合戦…。ポイントは周瑜の美人妻と陸遜の膝枕…(らしい)。2冊目、劉備の懐の深さ。3冊目、親父(じじぃ?)の渋さ。とくに、3冊目の黄蓋が渋い。ここまでじじぃに燃えたのは久しぶりだな。赤壁の戦い、結末は知ってるくせに手に汗握って読了。孔明がまだまだ若くて、達観してなくてなんだか良かったぞ。劉備も劉備で、妙に大胆で、大物っぽくていいなぁ、と思いました。ここまで美形の30過ぎ(周瑜)はどうかとも思いますが、イラストがやっぱり素敵だった。
緋色の檻(後編) 名探偵コラリーとフェリックスの冒険
橘香いくの/四位広猫
(イラスト)・集英社コバルト文庫【
bk1】
行方不明のフェリックスを探すコラリーとエメライン(<シュシナック>)。同時にフェリックスの母親についても予想外の真相を知ることとなり…。
積み重ねられていった謎と伏線が一気に消化されていく。フェリックスの母・エリーヌの真相についても、一筋縄でいかなくて。フェリックスの内面につっこんだ今回、微妙なバランスの上に成り立っているコラリーに対する思い、狂気と紙一重とも言えなくもない独占欲。<シュシナック>との全面戦争は始まりそうだし、クライマックスまで間近かな?
異次元創世記 赤竜の書
妹尾ゆふ子/弘司(イラスト)・角川スニーカー文庫(絶版)
東ノ村は羊飼いの村。男子は大人になるとみんなが草原に出て行く村で、ジェンはただひとり”竜使い”の孫として、建物の中で知識を蓄えていくことに疑問を持っていた。ある日、村で”剣を盗んだ罪人”として裁かれる男がやってくる。この裁きに疑問を感じたジェンとその親友のウルバンは、この罪人を地道に助けることを決意する。
『真生の王』のひとつ前のお話。なぜ、東ノ村が壊滅状態に陥ったのか、ジェンがどうして竜と語ることができるのか、ジェンとイーファルの出会いなどが描かれています。『真世の王』自体はこれを読まなくても大丈夫なような造りになっているのですが、やっぱり読んだ方が物語りに味がでるかな。
ここに出てくるウルバンを読んだ後に成長したウルバンを思い返してみると、いい男になったな、と。ジェンもジェンで、このころからいろいろと思いものを背負っているんだな、と。あとは、イーファルが微妙におもしろかった。真世の王の方では、何か得体の知れない超人的な雰囲気だったんですが、ここでのイーファルの(意識しない)絶妙のつっこみ(?)が受けてしまった…
エメラルド・フォレスト 太陽と月の女神
楠本ひろみ/桑原祐子
(イラスト)・角川ビーンズ文庫【
bk1】
飛行機が事故に遭い、気がつくと内家摩耶は古代マヤ文明の都市国家のひとつの巫女姫として目覚めた。価値観の違いにとまどいを覚えつつ、摩耶は自分の前世である”マヤの巫女”の人生をたどることになる。
構楽しめました。前世の記憶と、現代の価値観を持ち合わすようになったマヤのジレンマというか、とまどいを受け止めながらもだんだん強くなっていくところはかっこよかったかも。特に、最後の方でどんどん改革を進めていくマヤの姿は”父親”の名残があったかと。
マヤの心の成長場面はよかったかと思うのですが、恋愛方面については少し書き込みが足りなかったかと。ふたりのええ男に惹かれるマヤ、でもって唐突なクライマックスからエンディング。なんちゅーか、はっきりしないというか、煮え切らんとういうか。で、結局?と言う感じで…。最後もイマイチよう分からんかったし(読み込んでないせいかもしれないけど)。
紅の鳥 銀の麒麟 下
紗々亜璃須/井上ちよ
(イラスト)・講談社ホワイトハート【
bk1】
朱雀公主の冠を人界で見つける命を受けた神女の里灯。準銀王や森司の協力を得てなんとか手がかりを見つけ出す。しかし、なかなかその人物とは接触できない上に、”炎”の属性を持つ里灯にとっては苦手な雨まで降ってくる。
上巻で予想したとおり、ラブがてんこ盛りでおなかいっぱいです。ごちそうさまでした。準銀王がおっとこまえで、紫沙様は悩殺セクシーバディで、森司のテンポは絶妙で、里灯は悩める乙女で。勘違い男が里灯に言い寄る場面はなぜだか心の中で笑いが絶えなかった…。
だからといって、ただただ恋愛方向に話が進むわけでもなく、人とのクオーターであるが故の里灯の”自分”へのこだわりとか、どうして準銀王が里灯に惹かれたのか、とかも読み応えがあったかな。オマケで青竜王も出てきたし(ちょっとうれしい)。
<→あとは最後の友情出演、女の子の方は分かったような気がするんですけど、男の方は誰…?誰か教えてくれませんか…?←>
真世の王 黒竜の所(上)・白竜の書(下)
妹尾ゆふ子/金田榮路
(イラスト)・エニックスNovels・上:【
bk1】・下 【
bk1】
<銀の声持つ人>の生み出した世界。真実しか書き記されないという本と現実とのゆがみが魔物を生み出し、世界は滅亡の危機に瀕していた。竜使いのジェン、言葉を紡がない亡国の姫エスタシア、ジェンの幼なじみのウルバン。世界の滅亡を阻止するそれぞれの戦いが始まる
「テイ(立て)、エスタシア」
これほど心に残ったセリフは久しぶり。くじけそうになる度にエスタシアの心に浮かぶ言葉。何回も何回も出てきて、その度毎になぜか泣きそうになってしまった。
この世界の”造り”、そして本と<言葉>という存在の大きさ。今まで読んだファンタジーの中でも、この舞台は1・2を争うくらいに魅力的で、ついつい没頭して読んでしまった。そして、読んですぐに二度読みしてしまうほどはまってしまった。
何も特別なものを持たなくて、ただただ自分にできることを必死にしようとするウルバンが好き(my王子様リストに追加しとくか…)。彼とエスタシアとの”心のふれあい”(でいいんかな?)は良かった。そして、滅亡に瀕している世界、ということで終始重苦しい雰囲気なのですが、その中で領主ソグヤムとその従兄殿のお気楽会話は和んで良かった。
旋風は江を駆ける (上下)
朝香祥/桑原祐子
(イラスト)・集英社コバルト文庫・上【
bk1】・下 【
bk1】
中国は後漢時代。孫策は幼なじみの親友・周瑜の知恵を借り、戦国時代を生き抜く。
あらすじかけない…。三国時代の呉に焦点を当てた作品(群)。
孫策と周瑜の友情物語かな。特に、上巻なんて「えー!」っていうところで幕切れなので、もし読むのなら下巻を手元に置いた状態で読むことを強くおすすめします。後半の孫策と周瑜のすれ違いは読んでいて切なかったなぁ。周瑜の飄々とした性格が思いっきり気に入ってしまった。イラストも美形だし。
さて、三国志といえば
真三国無双で、孫尚香を愛してやまない私ですので、呉がメインというのはすんなり受け入れられました。そういえば、尚香さんの”影”は登場してたなぁ。次から出てこないんかな…?呉→孫権→周瑜→赤壁の戦い→劉備の奥さん、などというわけの分からない思考回路しか持たない私のバイブル(?)は
NHKの人形劇三国志、なのです…。あれは名作だ…。DVDほしい
(安ければ)。
A君(17)の戦争 2.かえらざるとき
異世界に魔王になるべく召還された剛士は、田中さん(現役魔王)の跡を継ぎ、国を守ることを固く誓う。しかし、守るにしても何にしてもとりあえずは”先立つもの”が必要で…。
普段はいかにもいじめられっこの剛士が、ピンチに陥ると常人(魔族サイドにとっての)に思いもつかない方法でそのピンチを切り抜けていくところが読んで爽快。今回は、派手な戦闘はないものの、「戦争」ってなんだろう、とちょっと考えさせられるものがありました。シレイラ王女の見事な猫かぶり(あのギャップが好き)と、彼女がどうして戦争をしたいか、という思い。そして、国を滅ぼさないための戦争。外面は軽いんですけど、中身はしっかり重たい話。
最後に、ついでに田中さん、もう何もつっこむまい…。3巻がすぐに発売とかで。うれしいことです。
東方ウィッチクラフト −神様はダイスを振らない−
竹岡葉月/飯田晴子
(イラスト)・集英社コバルト文庫【
bk1】
「ウィッチクラフト」に関する怪しげなメールが流行っている昨今、一子は柾季の使い魔として今日も肉体労働の日々を送っていた。そんな彼女らの前に現れたのは、バリバリ魔法少女の宇卵。どうやら柾季と因縁があるらしく、一子を人質に宇卵はあるものを柾季に要求する。
魔法といえば、ついにあれです。魔法少女の登場…。キャラがきつい…。そして、おもしろい。バ、バトンですか…?今回、柾季の内面にふれる場面もあり、柾季以外の「魔女」たちに関する伏線もありで、次回以降が楽しみな終わり方。最後の最後に、宇卵は爆弾を残していったしね。
そして、おもしろいといえば妙なテンションの御堂学園の文化祭もおもしろかったな。やっぱり、文章のテンポが良くていいですねぇ。
夏嵐 〜緋の夢が呼ぶもの〜
朝香祥/北条風見
(イラスト)・集英社スーパーファンタジー文庫【
bk1】
宝姫大王の次男・大海人。体が弱く、つい最近まで田舎で静養していた彼は、宮中でも”ぼんやり”している浮いた存在であった。そんな彼の時折見せる鋭利さに気づいた大王に仕える額田。そして、宮中には蘇我氏が権力を拡大していくことへの不満が日に日に増大していった。
はまってしまった朝香さんの他の本を読んでみようと思い、デビュー文庫を手に取ってみました。”ぽややん”大海人が時々見せるあの鋭さがかっこよかった。とくに、クライマックスの額田とのやりとりなんて最高っす。額田もはきはきと自分の意見を言う強い女性で良かったなぁ。ラストもいいし。読んで良かった。
でもって、これって古代日本の世界なんですよね。「なーんか、聞いたことある名前がいっぱい。とくに、大海人…、だれやったっけ?」(注:日本史はすでに忘却の彼方)という私。きっと、日本史をちゃんと勉強していて、ちゃんと覚えていたらもっと楽しめただろう…。
閃光のミオ アグラファ2
三浦真奈美/那知上陽子
(イラスト)・C-novels【
bk1】
マジョレ島で大勝利を納めたミオは、帰ってきて早々に新たな任務を言い渡される。一方、リグリアでは「聖女」のユリアを中心に、独立の気運が高まる。
相変わらずあらすじが書きにくい。ミオの立身出世街道第2弾。前巻ではまだお子様だったミオがずいぶんと立派になって…。北部討伐の場面も燃える展開だったなぁ。
海賊さんサイドでは、やっぱりアインとその副官さんの掛け合いがいい。特にジャンケンとか?後はユリアですかね。今のところあんまり好きじゃないんですけど、今後の彼女の動きに要注意、といったところでしょうか?
紅の鳥 銀の麒麟 上
紗々亜璃須/井上ちよ
(イラスト)・講談社ホワイトハート【
bk1】
鳳凰族の神女・里灯(りとう)は半端者の烙印を押されてふてくされていた。そんな彼女に言い渡された最初の仕事は、朱雀公主の盗まれた冠を探し出すこと。手がかりもほとんどないこの大仕事に、里灯は友人のつてで麒麟族の青年(?)に助力を頼むことになる。
こ、これはあれですかね。いわゆる、ラブコメ…。いや、コメディではないんですが、神族の価値判断に基づく行動をとる里灯が、人間の行動を変にまねするところとかがおもしろかったりして。これも、いつもと同じく『崑崙秘話』やらなんやらと微妙につながっていて、そこら辺がちょっと楽しめるかも(ああ、悪の元凶はあのときのあいつか、みたいな楽しみ方)
途中、里灯と人間との価値観やら何やらの食い違いのところ、少しうっとうしく感じてしまったのですが、そこら辺はたぶん読み飛ばしても大丈夫、かな…。なんたって、今回のメインは里灯と準銀王のラブ(ここ重要)ですから!あ、ついでにのんびりまったりマイペースな森司さんもいい味出してます。さっさと下巻を読みたい。
H.O.P.E2
一条理希/山本京
(イラスト)・集英社スーパーダッシュ文庫【
bk1】
勇斗はH.O.P.E医学専門学校を卒業後、研修医として私立病院に勤める15才。通勤途中に偶然交通事故に出会う。事故後、病院で勇斗は謎の少女に命を狙われて…。
勇斗が、結花が大変な目に。H.O.P.Eの作られた理由や、世界が瀕している危機についてどんどんと明かされていって、最後までノンストップ。H.O.P.Eの意味がもつ二面性というか、そういう隠喩的なものに驚きました。
最後は、勇斗にとっては言わずもがな、結花にとっても大変なエンディング。この後、この世界が迎えるのはどんな未来なんだろう…。
閣下とマのつくトサ日記!?
喬林知/松本テマリ
(イラスト)・角川ビーンズ文庫【
bk1】
魔王ユーリに全身全霊、命をかけて愛を誓う王佐ギュンター。彼の陛下との愛の日記「夏から綴る愛日記」が大幅に加筆修正されて出版されることに。そこから選び出された良い話、3編。
はまった、またしてもツボにはまりすぎた…。おもしろかったー。要所要所をつく笑いのツボがクリティカルヒットを連続しつつも、泣かせる話も入っているし。眞魔国ではやっている2冊の本が、まずおもしろいし。クマハチはかわいすぎるし<一話目>。マッドマジカリストのアニシナ嬢がこれまた強いし(イラストもあるし)<二話目>。次男コンラッドはかっこよすぎるし<三話目>。そして、ビーンズ文庫のとある本までネタになってるし…。
4つの変奏曲 ローゼンクロイツ・プレザン
志摩友紀/さいとうちほ
(イラスト)・角川ビーンズ文庫【
bk1】
セシルとオスカー、結婚する前に実はふたりは出会っていた<ボルサ事件>
オスカーに影のように従うピネ。ふたりの出会いは…<白い手の貴婦人>
親友だったアルマンとオスカー。アルマンが野望に目覚める日を描く<ウポロス−野望の竜−>
モンフォール公爵夫妻のささやかな日常<ラヴィアンローゼ>
以上、4つの短編が入っていますローゼンの短編集。メインはボルサ事件かな?こちらはセシルと母マリーの心温まる…(いや、温らん)交流も描かれております。不注意でやりこめられた母を助けるセシルにちょっとほろり。いつもながらのさいとうちほさんの華麗なるイラストの数々。思わずため息…。そして、今回もやはりセシルを女と見立てることで楽しさ増加