2006年9月の本の感想



春期限定いちごタルト事件

米澤穂信/創元推理文庫bk1amazon

小市民的日常を過ごすという壮大なる目標を持って今日も今日とて小市民たろうと日々を慎ましやかに生きる小鳩君。そして、恋愛関係でもなく依存関係でもなく、互恵関係にある小山内さんとは小市民の星を目指すという同じ目標を掲げていた。

先日のオススメ本教えて下さいで教えて頂いた作品。小市民の星を目指す小鳩君と小山内さんであったが、それは小鳩君の小山内さんのとある癖によってなかなかうまくはいかず……、という人の死なない日常ミステリーでした。小粒な事件の連続でこのまま終わるのかと思えば最後はそこそこの所にまで発展してしまいますが……、小市民を目指す二人にとっては心外以外の何物でもないところがまた面白いです。
小鳩君と小山内さんの「互恵関係」という何とも言えない関係が新鮮で面白いです。そしてとにかく冷静な小鳩君の視点で話が進んでいくため、小山内さんの謎が謎のままで大変気になってしまいます。甘いものに対する並々ならぬ情熱は分かるのですが、もしかしなくても、外見に反して小山内さんって怖い子……、でしょうか?この二人の中学時代に一体何があったのか、大変気になるところであります。
SEP/18/2006 ↑TOP
 


モンスターズ・イン・パラダイス1

縞田理理/山田睦月(イラスト)新書館ウィングス文庫bk1amazon

新米捜査官のジョエルが配属されたのは≪神話的人類≫がらみの事件を専門に取り扱う風紀係異種族問題特別班。しかも相棒はヴァンピールのカート・ウィステンラ捜査官。≪神話的人類≫恐怖症のジョエルにとって苦難の日々のはじまりとなる。

縞田さんの新作は登場人物(?)がほとんど人外の警察もの、でした。ジョエルと風紀係の面々(しかも脇役)以外全部神話的人類……。しかも、そこらへんがまったく違和感ない世界で繰り広げられる人間と≪神話的人類≫の人々のお話。神話的人類の人権が認められてるとはいえ、まだまだ差別の残る世界での彼らの生き様がなかなかかっこいいですよ?(絵描きさんはよかった)。
神話的人類恐怖症のジョエルが、その人の良さでどんどんとカートをはじめとすして神話的人類の皆さんとの距離を縮めていく過程がよかったです。そして、あからさまに怪しすぎるエルモーライという存在。敵か味方かもよくわからない彼ですが、果てして一体何者なのでしょうか?
SEP/15/2006 ↑TOP
 『裏庭で影がまどろむ昼下がり


月色光珠 暁の野に君を想う

岡篠名桜/風都ノリ(イラスト)集英社コバルト文庫bk1amazon

長安の琳琅の元に北から母と母のお供として幼なじみの馮生がやってきた。しばらく都に滞在するという母と、都で医師になるために勉強をするという馮生。しかし、馮生は勉強の傍ら養父の形見について何かを探っているらしく、その形見が原因で何者かにおそわれる。

コバルト新人さんの中華ラブストーリー第2弾。今回も前回同様、結構好みのツボの展開でしたが、うーん、なんかもうヒトヒネリっ!というかもうひとパンチっ!がほしいです。面白いんだけど、オススメ〜というほどのおもしろさではないんですよね。少女小説的らぶすとーとしてはそれなりに面白いのですが。恋心と「邪魔をしてはいけない」という理性との間で揺れ動く琳琅や普通に嫉妬している魏有なんかはなかなかによかったのですが……。両思いじゃないかこのやろうという展開なんですが二人の思いが通じ合うのはいつのことやら。
幼なじみ関係は、もっとこうラブ的に引っかき回してくれるのかと期待すれどもそんなこともあまりなく、ちょっと残念。そんなあっさりでいいのかいな、と突っ込みたくなったりしてしまうラスト周辺も若干もったいない。文句たらたらのように見えますが、私は結構楽しみました。
SEP/02/2006 ↑TOP
  『月色光珠 黒士は百花を捧ぐ


EDGE5〜ロスト・チルドレン〜

とみなが貴和/緋野鹿六(イラスト)講談社WH X文庫bk1amazon

練磨の元に届いた「十五年ぶりに会いたい」という謎めいた一通の手紙。手紙の差出人を確かめるために指定された場所に向かった練磨であったが、そこで練磨は連続少女誘拐事件の被害者の遺体を発見する。

EDGE最終巻、すばらしいラストでした。今回はいつも「圧巻っ」の一言である犯人側の心理描写は既刊分ほどではなかったのですが(これでも十分説得力があります)いろんな事件が一本の線に繋がっていく流れはとにかく面白かったです。だいぶ久しぶりの新刊だったので既刊分全て読んでから、と思っていたのですが結局我慢できずに4巻読んでから5巻に進みましたが……、4巻読んでからでよかったです……。たぶん、いきなり5巻を読んだ時よりもおもしろさ倍増。 何を書いてもネタバレになりそうなので後は白字で。
とにかく何がよかったかというと、寂しいラストしか想像できないよ〜と思っていたんですが思いっきりハッピーエンドだったということ。かなりかっ飛ばしてのハッピーエンドだと感じましたが、なにはともあれ、ハッピーエンドはいいものです。
前を向いて歩み始めた練磨や、宗一郎についてはもうこれはお幸せに、ということしかないですね。最後の彼の不意打ちの登場には多少びっくりしましたがえー、これはどういうことなのでしょうかとちょっといろいろ考えてたりしてます。やっぱりタイムワープ……?

最後の最後にして、内藤先生と松波さんが妙にかっこよかったです。次回作も楽しみです。
SEP/10/2006 ↑TOP
  『EDGE4〜檻のない虜囚〜


アリソンIII (上)ルトニを車窓から/(下)陰謀という名の列車

時雨沢恵一/黒星紅白(イラスト)電撃文庫bk1amazon

西側と東側を横断する大陸鉄道が完成した。まだ限られたものしか乗車することができない電車のチケットを西側の軍人ベネディクトからもらったアリソンとヴィルはベネディクトやフィオナとともに列車の旅に出発する。超豪華列車での快適な旅行のはずであったが、車掌が殺害されたことから始まった連続殺人事件のお陰でとんだ旅行になり……

アリソンの完結編。上巻の「序章の前・a」でえええええええーーーーというような状況であることを知りまさかそんなんでもなんかあるかもしれないけどでもでもそれじゃあ(←若干動揺している)と思いながらも、そんなことみじんも感じさせない本編でやっぱりアリソンは面白いなぁと読み進めておりました。事件の真相については、二転三転する状況にこれまた手に汗握る展開で。もう私、これで決意しましたよ。誰も信用しないと(違)
一気にまとめに入った下巻での教会のシーンは大変素敵でした。いいなぁ、こういうじんわりと来るラブも(笑)。まさにお幸せに、の言葉が似合うシーンだと思います。どの登場人物も魅力的でしたが、やはり個人的に気になるのはヴィルのお友達かな。最後まである意味謎に包まれた存在ですので、余計に気になります。次シリーズでも登場はあるのでしょうか?
SEP/01/2006 ↑TOP
  『アリソンII 真昼の夜の夢


しゃばげ

畠中恵/新潮文庫bk1amazon

江戸でも有数の廻船問屋の一人息子・一太郎は非常に体が弱く、両親をはじめ世話役の手代たちに非常に心配されて生活していた。ある夜、人目をごまかして夜歩きをしていた一太郎は奇妙な殺人事件を目撃してしまう。命からがらその現場から逃げ出すことに成功した一太郎であったが、その後連続して殺人事件が起こる。常人には見えないが一太郎には見える上になぜか好意的な妖怪たちの手を借りて、事件の真相を探ろうとする一太郎であったが……

オススメ本教えてくださいでコメントが非常に気になった作品、周りの過保護っぷりが非常に楽しいという件が気になりまして確かめついでに読みましたが、尋常じゃないほどの過保護っぷりがたしかに楽しかったです。もうこれありえないだろというくらい体の弱い一太郎(死なないのがおかしいくらい)、あたふたあたふたの周囲が(不謹慎ながら)おもしろくて。もちろん、あやかしたちもなんのかんので甘かったり一太郎ラブオーラがでていて面白かったです。
自分が関わってしまった連続殺人事件を心配する両親や手代の目を盗んでなんとか解決(の手助け)しようとする一太郎がなんだか普通にかっこよかったんですが、目の錯覚かな……?大商人のボンボンらしく、おおらかでやさしいところもある一方で、病弱が故に芯が通った面もあり、一太郎に非常に好感が持てました。一太郎に付き従う(割には態度のでかい)二人の手代も魅力的。さて、続きも是非とも読まねば……
SEP/03/2006 ↑TOP
 


彩雲国物語 紅梅は夜に香る

雪乃紗衣/由羅カイリ(イラスト)角川ビーンズ文庫bk1amazon

茶州から王都に戻ってきた秀麗は騒ぎの責任を背負い自宅待機を言い渡される。出仕をしていないとはいえ、日々自分にできることを探して動き回っている秀麗であったが、ある日奇妙な求婚者が秀麗の前に現れる。一方、王城では伝説の画家・碧幽谷が王都にやってきたという噂を聞きつけ、劉輝たちが幽谷探しのため城下を駆け回ることになる。

連続刊行されるらしい彩雲国新章の1冊目。売れるときに売ってやろうという戦略が見え見え、いえ、面白い話が連続で読めるのはうれしいことですが!
今回のお話は導入部ということで割合と軽めに進んでいったように思います。いつもながらの登場人物たちの軽快なやりとりが面白い。なんだか、話が進んでいくにつれて口調が軽くなっていっているような気がしなくもないんですがこんなもんでしたかね?(←確かめる気はない)また新たにむやみやたらと強い女性の登場で、いろいろと爽快でした。碧家の家庭の事情も見え隠れ、そして王都での悪役っぽい人も見え隠れで今後どうなるのかなーと楽しみです。清蘭にあれだけ喧嘩を売っておきながら無事だったということ自体が才能のように感じる男・タンタン君と秀麗の起死回生策というのはどんなものなんでしょうか?続きが楽しみです。
今回のように超常現象が全く関係のない展開だったらひっじょーに好みなのですが、そうも行かないんだろうなー。”七家だけが残された理由”等あきらかに今後超常現象が絡んできそうですからね……。
SEP/02/2006 ↑TOP
 『彩国物語 藍より出でて青


霧の訪問者 薬師寺涼子の怪奇事件簿

田中芳樹/垣野内成美(イラスト)講談社ノベルズbk1amazon

軽井沢で開かれるアメリカの美人富豪のパーティーに招待された涼子は休暇を取り、なぜか泉田君を伴って軽井沢へ乗り込む。

講談社からの薬師寺涼子シリーズ最新刊は軽井沢で巻き起こる一騒動でした。泉田君の拉致監禁から始まって(と書くと首謀者は涼子のようだが(ある意味間違ってはいない)今回に限り涼子ではない)、妙な新興宗教の妙な理念、そして女装界の天下統一と繋がりそうにない一連の事件が見事に繋がっていくのはさすがです。
いつもながらの涼子の傍若無人振り女王様っぷりは見事なもので、爽快。いろいろと思うところもありますが(お涼シリーズはこの時事ネタを書きたいが為執筆ペースが速いのだろうとか)、涼子と泉田君がおもしろいのでもうなんでもいいや。今回の涼子はちょっとストレート過ぎやしないかとラブコメ的にひやひやしましたが、それでも見事にその辺をかわしていく泉田君があっぱれとしか言いようがありません。
今回の事件はいつもと違って怪奇色が薄く、ラストバトルにたどり着くまでは怪奇事件じゃないんじゃないかと妙な心配をしてしまいました。そして、薄幸のお嬢様の存在がいつもと違う雰囲気を醸し出していましたね。涼子もちゃんと同情心を持ち合わせている人間なのだと妙なところで感心してしまいました。その点では、今回の涼子は「とにかく再起不能になるまで敵をぶちのめす」といういつものノリと違う面があったように感じます。
SEP/01/2006 ↑TOP
 『夜光曲 薬師寺涼子の怪奇事件簿