2006年10月の本の感想
はじまりの骨の物語
五代ゆう/鈴木理華(イラスト)GA文庫【bk1・amazon】
焔の魔術を操り、未知の敵である<冬>と戦う女戦士ゲルダの所属する軍は、ゲルダの養い親であり恋人でもあったアルムリックの裏切りにより壊滅する。アルムリックへの復讐のため、彼が求めていたらしい北の宝の行方を探るゲルダは西の国の王子の軍に客として迎えられることとなるが……
一言で言うと、とても分厚くて濃いお話でした。愛情と憎しみは表裏一体でして、という面は本当に些細なことでしかなくて、この物語の舞台とする世界の奥深さにただただ引き込まれるばかり。これがデビュー作ってすごいですね。
がっつんがっつんと容赦ない展開の連続で、心の涙で前が見えませんの一歩手前まで簡単にいけますが、容赦ないなーと思う一方でとにかく話に引きずられていってそれどころじゃないというのも事実。最後は最後で読んでよかったーと思えるような若干さわやかさが漂うエンディング。タイトルからはどんな話なのかなと想像もつきませんが、たしかに「はじまりの」物語でした。
紅牙のルビーウルフ4 皓白の反旗
淡路帆希/椎名優(イラスト)富士見ファンタジア文庫【bk1・amazon】
即位一周年式典で何者かに導きの剣を奪われてしまったルビーウルフ。エリカのもたらした情報を元に、剣を取り戻すためルビーウルフ一行は大陸の南にある未知の島に向かうことになった。一方、トライアンでも同様の事件が起こり、裁きの天秤を手にしていたミレリーナが近衛のロヴィンと共に謎の光に飲み込まれてしまった。
最終章に突入でしょうか?のルビーウルフ。今回も「もうこれファンタジアというよりむしろビーンズ(コバルトとはちょっと違うんですよね)ですよ」というような少女小説的なノリにひとりでニヤリ。婿にするならジェイドしかないと思います。そして今回も狼さん(特にフロスト)に胸を打たれました。くそう、フロストいい奴だな!
で、ようやくラスボスのお目見えかというところでまさかラスボスがあの人だったなんて(←まだ確定してないというのにもう決定済みのような反応。上にまだいるんでしょうが)というある意味驚きの展開。前回・前々回のようにちゃっちい黒幕じゃないですよ、さてどうなるのでしょうか。
ねじまき博士と謎のゴースト
樹川さとみ/うたの(イラスト)集英社コバルト文庫【bk1・amazon】
被後見人のために家庭教師メアリーを雇ったアレックス。なんとかリーの家庭教師として職務を全うしていたメアリーだが、ある日屋敷の中で幽霊を目撃してしまう。
長編のふりをした短編集のようなお話でした。表題の家庭教師と幽霊話の他、アレックスとリーと最強の歌姫、オリビエのデート大作戦、そしてアレックスとリーのバカンスのお話でした。
それにしても、歌姫・エスメラルダは最強でした。いやいや、非常にパワフルでかっこよくていいですねぇ。しかし、今後の登場はたぶんないだろうなーというところは若干残念です。全部の中で一番好きなのは実はオリビエの話です。オリビエのお話も彼のいい人振りが全開でよかったです。
春に来る鬼〜骨董店「蜻蛉」随縁録〜
日向真幸来/柴倉乃杏(イラスト)B's-LOG文庫【bk1・amazon】
高校三年生の春休み、瑞穂は地元の祭「天狗の鬼退治」のヒロイン・お多福役に選ばれてしまった。相手役の天狗に選ばれたのは別件で村を訪れていた骨董店の跡継ぎの祥一郎。祥一郎は天狗役を演じることを承諾するが、瑞穂はお多福役を拒否する。なぜなら、2年前の祭ではお多福を瑞穂が姉のように慕っていた亜美が演じ、彼女は祭の途中忽然と姿を消したからだった。
新創刊B's-LOG文庫の創刊ラインナップの(買ったのでは)2冊目。こちらは地味ですが硬派で面白い作品でした(そこはかとなく失礼)。
普通の女子高生と大学生が祭にかり出されて、そこでいわくのある事件に巻き込まれる?話。安定したおもしろさというのでしょうか、時折はさまれる民俗学的知識的なお話もタイミングも過不足もなくちょうどよいい感じ。極々普通の高校生と、彼女の前に現れるいい人全開のかっこいい大学生と、きれいどころだけどオネエ言葉のその先輩というのも、少女小説的にはおいしいのではないでしょうか?
ただ、途中でなぜかはさまれる昔話がバランス悪いな、と思うのです。お祭りの元となった物語なのでしょうが、あそこに入れる意味が不明。事件の真相が分かって気分最高潮に達したところでいきなり話変わる、というのはちょっと乗り切れないなー。昔話自体も決してつまんないわけではないので、もうちょっと入れる場所が違えばもっと効果的だったんではないかと思ってしまうのです。
金の王子と金の姫〜神の眠る国の物語〜
剛しいら/佐倉汐(イラスト)B's-LOG文庫【bk1・amazon】
”神が守りし国”ウラル王国に突如隣国ハッシュウィルが攻めこみ、一人何とか逃げのびた王女シーナ。ご神体の力を借り兄の姿となりもう一つの隣国ゴシュラムの王に仕えることとなったシーナは、ウラル王国奪回の機会をうかがうこととなったが……
新創刊B's-LOG文庫の創刊ラインナップ。この作品はひっじょうにコメントに困る作品でした。
ストーリー展開はメチャクチャ好みなんですよ。隣国攻めてくる→王女様ご神体持ち出してなんとか一人逃げ延びる→男装して兄王子のふりして他国の王に仕えてチャンスを待つ→その王様(婚約者もいる)に惹かれてはいけないのに押さえられない恋心っ、て、これだけ見たらまさに直球でツボなんですが。
描写が薄いというか軽いというか。かなり書き込んであるあらすじを読んでいるような気分でした。あとはレディ騎士って何とも言い難いネーミングが……、とか、ご神体の扱いそれでいいんかいな等何カ所かに突っ込みたくもなりました。
カーリー〜二十一発の祝砲とプリンセスの休日〜
高殿円/椋本夏夜(イラスト)ファミ通文庫【bk1・amazon】
オルガ女学院に藩王国のプリンセス・パティがやってきた。学院内でわがまま放題のパティはヴェロニカの特別室をダッシュし、あまつさえカーリーをメイドとしてシャーロットから取り上げてしまった。カーリーを取られた上に不本意ながらヴェロニカと同室になったシャーロットは……
第二次世界大戦期のイギリス植民地インドを舞台とした世界名作劇場風の全寮制女子校での物語。どうやら今回は女子校編のラストのようです。
プリンセス・パティの巻き起こす大騒動の数々が楽しかったです。そして、その大騒動の陰に隠れたとあるもくろみと陰謀、割と最後の方まで暗い部分は表にきませんでしたが。いつまでも夢の世界のような学園にいたいけどそれを許す状況ではない、という明るさの中に隠れた悲壮さがなんとも切なかったです。
ヴェロニカの印象ががらっと変わったのもなかなかよかったですね。縦巻きロールのお嬢様にもいろいろあるのですよ……(しみじみ)。シャーロット大人編の4年後もできればよみたいなぁ。そこはかとなく楽しみにしておこうと思います。
彩雲国物語 緑風は刃のごとく
雪乃紗衣/由羅カイリ(イラスト)角川ビーンズ文庫【bk1・amazon】
冗官は1ヶ月以内にどこかの部署に拾ってもらわなければクビ、という崖っぷちの状態に立たされた秀麗と蘇芳。秀麗は他の頼ってくる冗官の面倒を見るばかりで自分の求職活動には全く手をつけられない状態だった。
2ヶ月連続の彩雲国物語2冊目、タンタンと冗官編の後編です。今まで何のかんので味方ばかりに囲まれるという恵まれた状況であった秀麗に強力なライバルが登場。たしかにやな奴ー、でしたが、彼の言うことももっともであり憎めないというかいっそすがすがしいというか。
さて、タンタン編ということもあり影の主役はタンタンでしたね。果てしなくやる気のないタンタンが果たして脱冗官できるのか、というところも非常に気になりまして。そして話が進めば進むほどタンタンがなぜかかっこよく見えてっ。おかしいなぁ、目が悪くなったんだろうか。
秀麗とタンタンの新境地での活躍やどうやら次に登場するらしい藍家のお姫様、そして劉輝のお嫁さん問題への対応策など続きも楽しみです。
空ノ鐘の響く惑星で 12
渡瀬草一郎/岩崎美奈子(イラスト)電撃文庫【bk1・amazon】
ラトロアの議員たちとの会談に臨んだフェリオとウルクは、ジェラルドの思惑を逆に利用し議論を優位に進めることに成功した。しかしその会談中、死の精霊を操り来訪者達の世界に渡ろうとするメビウスの手により、”終末の黒い神殿”と呼ばれる漆黒の空間が現れた。
2冊分くらいありますの空鐘の最終巻。本当にきれいに大円団に終わりました。ここまできれいに大団円だとは想像もしてなかったです。そして、もう、カボチャ、カボチャ。パンプキンにつきます。誰がなんといおうともこの物語の主役はパンプキンだったんですねっ!おいしいところ総取りでメチャクチャかっこいいじゃないですかこのヤロウ。
きっともう出番もないのだろうと思っていたあの人やこの人にも見せ場があり、おいしいことしてくれるじゃないですか作者さん。そして、今回はイラストがですね……、らぶいです。
それぞれが自分の居場所を見つけ、明日に向かって歩み出した最終巻。エピローグの最後の最後まで本当によかったです。
伯爵と妖精 女神に捧ぐ鎮魂歌
谷瑞恵/高星麻子(イラスト)集英社コバルト文庫【bk1・amazon】
ロンドンブリッジで奇妙な連続殺人事件が起きた。プリンスが関係していることを確信したエドガーは、リディアを強引に伯爵邸に滞在させることにする。
いよいよ大御所との直接対決も近いか、という急展開(毎回言っているような気がします)の伯爵と妖精。今回もいろいろととってもお腹一杯の場面の数々にどうしてくれようっ!という感じで(笑)。ラブ面でももちろんよかったのですが、トムキンスの一言やリディアの身代わりにされなんとしても逃げようとするニコもよかったです。
プリンスとの対決が本格的に動き出した今回、勢力図にも表だった変化が現れこの先どう絡んでいくのかが楽しみです。不確定要素のケルピーがどう動くかが今後の鍵なのでしょうか?切羽詰まった状況とはいえとうとう一歩踏み出したリディア、そしてそれをレイブンにもトムキンスにも信じてもらえないエドガー、それにケルピーとアーミンも気になるし……、続きが気になります。
<骨牌使い>の鏡III
五代ゆう/宮城(イラスト)富士見ファンタジア文庫【bk1・amazon】
<異言>によって連れ去られたアトリは意識を<十三>の公女に乗っ取られ、<異言の王>として<異言>と東方の異民族の軍を率いる立場となっていた。一方、ハイランドではアトリを助けることもできず、また、兄王が死期に近づいているという状況でロナーは苦境に立たされていた。
<骨牌使い>の鏡の最終巻。たしかにこれは帯にあるとおり「物語には常に最善の結末を」というにふさわしい最終巻でした。とにかく、熱い、展開が熱いのです。息をつく間もなく明かされる真実の数々、アトリやロナーが取る行動のひとつひとつが”最善の結末”に向かって収束していく様がすばらしい。ロナーがかっこいいのはもうこれヒーローなので当たり前なのですが、あの最初の印象最悪の小悪党だったダーマットまでもがかっこいいとはだれが想像できましょうか(注:褒め言葉)。登場人物それぞれの物語もそれぞれの”最善の結末”を迎え、もう大円団というにふさわしいラストでした。
黒の眠り 薔薇の約束 ウナ・ヴォルタ物語
森崎朝香/由貴海里(イラスト)講談社X文庫 WH【bk1・amazon】
学園の倉庫で不幸な事故により少女の石像に口づけ、石像の封印を解いてしまったフユカ。石像に封じられていたのは夢魔で、その夢魔曰くフユカは五百年前の大魔導師の生まれ変わりであるという。しかも夢魔は魔導師の恋人だったということで、フユカを恋人としてうっとおしいくらい慕ってくるのだが……
今までとは路線変更して西洋っぽいファンタジーに新出された森崎さんの新作。無邪気でまるでイヌ(但し夢魔)のようにフユカになつく”うーちゃん”と、夢魔に(ある意味)取り憑かれ思いっきり邪険に扱うフユカの物語ですが、個人的にはイマヒトツでした。正直なところ一作目のような話を待ち望んでいたのですが別次元。フユカの置かれる状況や、その状況の中やれることだけやっておこー、と玉砕覚悟で恋に恋する状態から一歩進んでがんばってみて、さあ次だ、という流れは結構好きなんですが、もう”うーちゃん”の口調がうっとおしくてっ!私あれダメだわ……。コメディーと割り切れば楽しいのかも。
盛り上がりに欠けるのはシリーズ第一作目というところで多めに見ることはできるとは思うのですが、私は次が気になるーという気持ちにはなれなかったんですよね。フユカと次兄の関係の今後とか、シリアス展開になるらしいという点では若干期待してはいるのですが。2巻目以降は様子見かな。
あの花に手が届けば バンダル・アード=ケナード
駒崎優/ひたき(イラスト)中央公論新社 C-Novels Fantasia【bk1・amazon】
雇い主のミスにより大痛手をくらったバンダル・アード=ケナード。味方の軍と雇い主を合流させるため、シャリースは他の壊滅した傭兵隊の生き残りを吸収して行軍を進めることとなった。しかし、どこからか行軍経路が漏れているらしくことごとく敵兵の待ち伏せを受けて……
おっさん祭が更に強化されたバンダルの新刊。心のオアシスといえば今回もやっぱりプリティーで大活躍の白狼エルディルちゃんと、そして、なんと!今回はかわいい少女もちょっとだけ登場。エルディルちゃんはかわいいなぁ。
今回は「スパイは誰だ?」状態ですので、疑心暗鬼全開で読んでいました(基本的に騙されやすい)。終盤になって(遅い)なんとなーくネタは読めてきたんですが、それでもやっぱり誰だと手に汗に握りながらで。そして、最後の方は今までの鬱憤を晴らすがごとくのシャリースの手際に気分爽快になれます。今回の雇い主さん、個人的にはポイント高しなので前回の医者同様、再登場をそこはかとなく期待していたり。バンダルも新メンバーを迎え次の活躍も楽しみです。そして余談ですが今後バンダルの後ろにはもれなく子どもたち、という状況になるのかどうかという点が若干気になっておりますよ……。
ロマンシング・サガ−ミンストレルソング−皇帝の華
妹尾ゆふ子/小林智美(イラスト)スクエア・エニックス GAME NOVELS【bk1・amazon】
バファル帝国の皇帝として即位したレリア4世は若干6歳。摂政となった皇太后は幼い皇帝を暗殺者の手から守るため、そして皇帝が力を持ちすぎないために少女・ローザを皇帝の護衛に任じる。やがて女性だけで構成される皇帝直属の近衛隊『華』を率いるローザは日々命を狙われるレリアを守り……
妹尾さんのゲームをノベライズ作品。このゲームは全くの未プレイ(このゲームどころか、このシリーズに手をつけたことがない)だったので読むのをためらっておりましたが大きな間違い。ゲームをプレイした人なら楽しめる描写がたくさんありそうなのですが、そういうものを差し引いても十分楽しめました。
主役は近衛のローザというよりむしろ皇帝レリア4世。世間ではかなりのトホホ皇帝の評判を得ている(むしろその方向に自分で持って行っている)彼ですがその内面は実は……というお話。その生い立ちから人を信じることのできないレリアの寂しさがそれはもう切なくて。レリアの周りを固める人物はローザはもちろんのこと、ヘルマン、リスキスと魅力的でした。特に後半のリスキスはかっこいいぞ〜。
詩人のバラッド、ローザの神との対話の場面の幻想的な場面も素敵でした。一冊じゃなくて上中下くらいで読んでみたい!と思うほど内容が濃いお話で、読めて大満足です。
BLOOD+ ロシアン・ローズII
漲月かりの/高城リョウ(イラスト)角川ビーンズ文庫【bk1・amazon】
翼手とDIVAを追いロシア・ペトログラードで赤い盾のメンバーと活動を続ける小夜とハジ。彼らの前に謎の灰色の枢機卿・グレゴリーが立ちはだかり……
も、もっと主従ラブ分を〜と思いながら読んでいたら最後にようやく満たされた気分(違)。今回は前巻で影の薄かった赤い盾の面々が頑張ってましたからハジの影が相対的に……。残念です。いや、でも最後のあのシーンだけでも強烈に主従ラブでしたのでまあいいか。
BLOOD+過去ロシア編、の完結編。正直なところ「ええ、もう終わりっ!」と思わずにいられないくらいの展開だったのですが、きれいに完結しました。最後はかなりうやむやでみんなどうなったんだろう、という思いもありますが、そのあたりは多くを語らない今回の描き方の方がよいのでしょうね。小夜の旅はまだまだ続いて、TVアニメ版でようやく終わるのですから。そう考えると感慨深いものもあります(なんやかんやでアニメは全部見た)。