2002年9月の本の感想
黄昏の岸 暁の天(上下) 十二国記
小野不由美/山田章博
(イラスト)・講談社ホワイトハート・【
bk1・
別窓版】
登極してからわずかな間に国を整えていった泰王・驍宗。しかし、反乱鎮圧に向かった先で行方不明になり、その知らせを聞いた泰麒も忽然と姿を消してしまう。王と麒麟がいなくなったことで、荒れる戴を救う術を求め、将軍・李斎は景王・陽子に救いを求める。
今回は豪華。各国の王と麒麟が泰麒を捜すためにタッグを組む夢のコラボレーション。初出(かな?)の氾王と氾麟がいい感じ。陽子は男前に磨きがかかってきていて、延王を”脅迫”するシーンに惚れ込んでしまう。やっぱり陽子はかっこいいな。そして、せっかくいろいろな王様が出てくるのに、恭国コンビの出番が皆無なのが寂しい…。珠晶好きなんだけど。
それと、今回はターニングポイントになる話かと。<→
陽子を筆頭にして、いろいろな王様が感じている「麒麟が天意を受けて選んだ王様が国を統治する」というシステムについての疑問、みたいなものが各所にちりばめられていて。そのうち、王様連合がそのシステムに対抗する、といことにはならないのだろうか←>
このお話は『
魔性の子』の裏話のようで、それを読んだらいいのかもしれないけど、ホラーそうだし、ここに少しかかれている様子だけでも十分に怖いような気がしたので、ちょっとパス…。怖いのは嫌だ…。
図南の翼 十二国記
小野不由美/山田章博
(イラスト)・講談社ホワイトハート・【
bk1・
別窓版】
先の王が倒れてから27年、待てども待てども新王が現れる気配のない恭国。妖魔は現れ、災厄が続く国を憂いて珠晶は決意する。誰もいないようなら、自分が供王になってやろうと。十二歳の少女の、蓬山を目指す旅が今始まる。
以前ちらりと出てきた彼女は、それはもう生意気な小娘さんでしたが、ここでも相も変わらず。でも、その生意気さはどこか憎めない。物語の中で明かされる珠晶が蓬山に向かう本当の理由に思わずうなってしまった。頭の固い大人の世界に悩みつつも、自分の”正義”と”生きるために仕方がないこと”との現実に悩みつつ進んでいく旅路は、たしかに彼女にとって大きなプラスになったはず。王になるために危険な黄海を抜けて蓬山に向かうわけが、何となく分かったような気がする。
”答えだけを知っても意味がない、その過程が大切 ”というような意味合いの珠晶のセリフは、改めて心にぐさっときてしまった。このシリーズは私の心の指南書になりそうな、そんな予感…。
KLAN4 野望編
霜越かほる(
原作:田中芳樹)/いのまたむつみ
(イラスト)・集英社スーパーダッシュ文庫・【
bk1・
別窓版】
リンフォード伯爵にさらわれた風子を救うべく、一行はインドに向かうことにする。虎之介たちより一足先にインドに着いた孝行と美笛は、風子奪回計画を立てて…。
インドで戦争中に起こった悲劇、それに関わった日本人。微妙なところでつながっていくここら辺のストーリ展開は(流れが)きれいで好き。そして、今回大変です。孝行おじさんが爆弾発言。そして、ルネの過去も明かされて…、ととにかく内容盛りだくさん。でもって、伯爵あんまりいいところがないな…。もうちょっと悪役らしくがんばってほしいものです。
それと、この物語にらぶすとーりーを求めてもいいのでしょうか?いいんですよね!!微妙な関係が今のところ約二組。そこだ、いけ、負けるなとら!と、一応応援しておきますけど、今後どうなることやら。
注:数字はWとかなんですけど(ローマ文字?よく分からん)、機種依存文字で化けるようなのでアラビア文字にしています。
風の万里 黎明の空(上下) 十二国記
小野不由美/山田章博
(イラスト)・講談社ホワイトハート・【
bk1・
別窓版】
景王として即位したばかりの陽子は、自分の力が足りないことに悩み、言うことを聞かない官僚たちの態度に苦しんでいた。。
鈴は海客として虚海に落ち仙人になるも、主の不当な”いじめ”に苦しむ毎日を送っていた。
祥瓊は奉王である父親を殺され、母も目前で殺され、公主の地位を奪われ、一市民として苦しい生活を余儀なくされていた。
あらすじ、かきにくい…。とにかく、陽子と鈴、祥瓊という同じ年頃の、どこかしら似たような境遇を持つ3人の少女の成長物語。鈴と祥瓊は理由は違えども、目的は「景王に会うこと」。その目的を果たすまでに待ち受けている苦難の道は、『
月の影 影の海』の陽子に通じるものがある。それぞれが自分の非に気付き、それを乗り越えていこうという姿はかっこいい。
陽子と景麒のコンビも好きだな。景麒、もっとしゃべれ!ともやもやしながら読んでいた。ふたりの王に仕える麒麟特有の感情に揺れながらも、不器用ながらも陽子のために働こうとする景麒がよろしいですな…。最後の最後の陽子はやっぱりかっこよかった。陽子はいい王様になりそうだ。
東の海神 西の滄海 十二国記
小野不由美/山田章博
(イラスト)・講談社ホワイトハート・【
bk1・
別窓版】
雁国の麒麟・六太は蓬莱(日本)で王に巡りあい、彼に雁を託すことを決意した。六太に王として選ばれた尚隆の治世も安定期に入った頃、六太は昔に友達になった更夜に再会する。しかし、この再会が雁を震撼させる出来事の幕開けとなる。
まず、一言。「尚隆最高」(ごめんなさい、雁のコンビめちゃくちゃ好きなんで…。)
蓬莱生まれの六太、一度は支配者(=王)に裏切られたその経験からどうしても王というものを信じ切れない。蓬莱で一度国を失っている尚隆、誰よりも国民を大切に思うからこその彼の王としての態度は、周囲から見れば”王失格”。そんな複雑な内面を抱える主従の、絆の物語…、なんでしょうかね…。
麒麟としての性質から、戦(=流血)をどうしても嫌う六太と、支配者としては流血はさけられないとする尚隆のそれぞれの戦いが印象的。そして、尚隆の腹心たちの王を王とも思っていない、あれらの言動の全てが素敵です(笑)。
風の海 迷宮の岸(上下) 十二国記
小野不由美/山田章博
(イラスト)・講談社ホワイトハート・【
bk1・
別窓版】
蓬山に実った麒麟の実。しかし、その実はもがれる前に蝕に巻き込まれ蓬莱(日本)に流れ着いてしまう。十年後、蓬山に連れ戻された少年は、自分が戴国の麒麟であり、いつか王を選ぶのだと告げられる。右も左も分からない状態で、麒麟としての当たり前のことができない泰麒は不安な日々を過ごすこととなる。
第一シリーズ(?)前半が恐ろしく暗かったのに対し、これはそうでもなかった。ひとえに、周りから愛されまくっている泰麒のおかげかな。とにかく、人なつこい素直な泰麒がめちゃくちゃかわいい。日本で十年間育ったために、麒麟としての力を全く発揮できなくて、悩みまくっている姿がいじらしい…。王になるために蓬山にやってきた驍宗たちに泰麒が感じる親しみ、離れたくないという気持ちが丁寧に描かれていて、読んでいるこっちまで悲しくなってしまう始末。
家庭教師代わりにやってくる景麒のけんもほろろな物言いもおもしろかった。ついでに雁のお二人も出てきてなかなか剛胆なことをしてくれます。とにかく、読んで良かった。
ツボはやはり、あのお方のあの言葉:「……うるわしき同族愛だな」
デルフィニア戦記
茅田砂胡/沖麻実也
(イラスト)・中央公論C−Novels・【
bk1・
別窓版】
デルフィニアの国王ウォルは宰相の罠にはまり国を追われていた。逃亡中、刺客に狙われたウォルを救ったのは、異世界からとばされてきたという一見美少女のリィ。リィはウォルの同盟者となり、国を取り戻す手伝いをすることを約束する。(1〜4巻)
国を取り戻したのも束の間、今度はデルフィニアに対し、周辺諸国があの手この手でちょっかいをかけてくる。パラストとタンガから国を守ろうとするウォルの次の戦いが始まる。(5〜18巻)
今更ですが、デルフィニア戦記の紹介なんぞを。この作品は18巻という大作です。この巻数にちょっと引いてしまっている人はとりあえず王座奪回編の4巻までを読んでみることをおすすめ(ここで話は一段落してますから)。おもしろければ次も読み進めていくとよろしいでしょう。かなり有名作なので、図書館にも多数あると推測されます。
さて、内容。
とにかく、登場人物たちが魅力的。その魅力的な人物たちの掛け合い漫才、もとい掛け合いはおもしろい。ここら辺の絶妙な言葉のキャッチボールは茅田作品の魅力のひとつだと思っている。
ウォルの懐の深さ、剛胆さはスカーレットウィザードのあのふたりに通じるものがあるかな。彼はまあ別格なので置いておくとして、バルロやイブンやその他諸々、かっこいい人が多い。渋い親父・ドラ将軍なんかも好きだ。もちろん、女性陣もいい。男装の麗人というこれまたおいしいツボをついてくるロザモンド(中盤以降に登場)とか、シャーミアン、凛とした女性が多い。
リィとウォルの”同盟者”としての関係も好きだ。なんやかんやで表面上だけの夫婦になってしまった、ふたりの「夫婦喧嘩」のシーンは、思わず笑いがこみ上げてしまう。
あと、忘れてならないのは暗殺一筋のファロット族で王妃付の侍女(?)シェラの成長。ええ話や。
(ついでに、王都奪回編の3巻、これは涙なしには語れない。とにかく、茅田作品の中でも一番の感動のシーン(と私は思っている)がある、とだけ。)
ここまで褒めてばっかりで、不満はないのかというとそんなこともない。18冊も続くのだからちょこちょこほころびもある、かもしれない(私は気にはなってないけど)。それより、問題は後半に魅力ある悪役がいないこと。私は、デルフィニア戦記が『アルスラーン戦記』のライト版だと(勝手に)思っているのだけど、アル戦でいうところのギスカールや銀仮面郷のような存在がかけているのが少し不満。王都奪回編の時は、まだあの切れ者がいるんだけど…、もちょっと敵国サイドが賢けりゃなぁ、と思うことも、あったり…。といっても、これは贅沢な不満点で、私は現状のデル戦でも満足しております。
さて、デル戦は大陸書房から出ていた『
王女グリンダ・
(別窓)』という、デル戦の原型となる物語がまずあります(これは、中公からも発売し直してますね)。あとがきにもあるように『王女グリンダ』はリィとシェラの物語、デル戦はウォルとリィの物語。どちらから先に読んでも全く支障はないかと思いますが、その違いを比べてみるのもまた一興。
我、召還す −鳥籠の姫−
渡瀬桂子/百太瓏
(イラスト)・集英社コバルト本庫・【
bk1・
別窓版】
<歪み>が生じ、そこから妖魔がわき出す世界。施術師を目指す少年セスは、大陸一の施術師ランベルトに弟子入りするためにタレムにやってきた。そこでセスは、妖魔を連れた使役師の不思議な少女シアンに出会う。
Boy meets girl っぽいので読んでみることに。オーソドックスなファンタジーの世で繰り広げられる成長ものっぽい話のようだ。現実の細かいことに頓着しないシアンのぼけっぷりがすがすがしい。話中で明かされる、彼女が物事に頓着しない理由、なにやら深い事情がありそうなシアンの素性、その他諸々ひっくるめて好き。なにやら色々事情を知ってそうな謎の使役師ワイズとか、今後の動向が気になる…。
「歪んでいるからこそ、この世界は美しい」というフレーズが何カ所か出てくるのだけど、この一言がこの物語全てを表していると思う。そして、なかなか名言だと思う。
総括すると、次もでてほしいくらい気に入ってしまったけど…、イラストが微妙…。なんというか、バランスが悪いというか(ムニャムニャ…)
レィティアの涙 折れた翼
高遠砂夜/赤坂RAM
(イラスト)・集英社コバルト本庫・【
bk1・
別窓版】
ユーザに宿った宝石の力が日増しに強くなっていく。そして、行き倒れていたユーザたちを救ってくれた旅芸人の手伝いをしているうちに、彼の”力”を求めて国王が乗り出す。ユリエとカイを人質に助力を求められたユーザは、渋々国王の言うことを聞くハメになる。
物語は新しい局面を迎える。ユーザの力を求めて群がってくる魔物。そして、”折れた翼”ユーザを守るために、ユーザから離れようとするカイの心意気が切ない。ユリエの後悔と、弟を思いやる気持ちのジレンマも切ない。ついでに、ユーザの力を封印することのできる謎の男の言動も、怪しすぎて気になる。今後のキーパーソンになることは明らかすぎるのだけれども…。この巻が発売された97年から、次のがでる気配がないんだな…。
レィティアの涙 海風の笛
高遠砂夜/赤坂RAM
(イラスト)・集英社コバルト本庫・【
bk1・
別窓版】
濃霧で海洋上で停船中の船の上で、不思議な笛の音を耳にしたユーザ。その音に誘われるように海に落ちていく水夫たち。ユリエとカイも海に落ちてしまい、追いかけたユーザも波にのまれてしまう。3人がそれぞれ助けられた部族は、男か女しかいないような不思議な部族で…
女難の相がでているカイとユーザの災難の物語…。序盤の災難物語の所がおもしろかった。根っこは暗い話のはずなのに、何ででしょう?
”聖なる民”として、女だけの部族を維持してきた(ことから、カイがさらわれた理由が…)ムーアの一族と、迫害されてきた男だけの一族の確執がいたたまれない。”魚”たちの正体と、ユーザの竪琴に誘われて成仏していく様は感動ものです。
レィティアの涙 黄昏の館
高遠砂夜/赤坂RAM
(イラスト)・集英社コバルト本庫・【
bk1・
別窓版】
旅の途中立ち寄った街でユーザが誘拐されてしまう。不吉な噂を聞きつけたユリエとカイは、その噂の渦中にある屋敷に奉公人として潜入することに。
相変わらず、根は暗い話だ。浮世離れしていたユーザがだんだん人間っぽくなってきた。ユーザの性格が、双子の翼翔人に感化されてきている所には少し笑えたけど。後ろばっかり見ている姉妹と、前を向かせようとするウォルディの努力が涙ぐましい。そして、双子の羽に触っていたウォルディがうらやましい(笑)。
流血女神伝 砂の覇王8
須賀しのぶ/船戸明里
(イラスト)・集英社コバルト本庫・【
bk1・
別窓版】
目下、ロゴナの興味ははカリエの”新たな結婚相手”に注がれていた。そんなカリエは、ミュカと供に突然連れて行かれた先帝の住居で、ある意外な人物と再会する。その人物の言葉から、自分がやらなければいけないことを悟ったカリエは…。
前回、ルトヴィアに保護されたカリエが一大決心をしてしまうのが今回。。今まで謎に包まれていたザカリア女神とカリエの関係、選ばれた者と選ばれなかった者の心境、ドミトリスとグラーシカの戦い、とにかく盛りだくさん。ミュカとカリエの絡みは、やっぱりいい。どんどん過酷な、辛い展開になっていきそうなんだけど、今後もこんな絡みが少しでもありますように…。
何もかもが病んでしまっている国を立て直すことは、とても難しい、ということを改めて感じさせられてしまった。カリエの今後も気になるけど、同じくらいドミトリスたちも気になる。雲行き怪しい単語がいっぱいだったから…。
サン・フロリアヌスの騎士〜狙われた花嫁〜
中井由希恵/江ノ本瞳
(イラスト)・集英社コバルト本庫・【
bk1・
別窓版】
フィレンツェの豪商の娘ヴィオナは、家出先のサン・フロリアヌス村で出会ったた青年クラウディオと恋に落ち、見事婚約を果たす。しかし、クラウディオの方はヴェッキアーノ公爵(性格激悪)との中も相変わらず険悪。そんなおり、街の一心の期待を背負って馬レースのパリオに出場することになったクラウディオは…。
コバルト文庫万歳、の素敵な話。説明が長くてうっとうしい、と感じる方がおられるかもしれませんが、私は好きな分野なのであまり気にならない。
クラウディオは相も変わらず「王子様」で、王子と姫(ヴィオナ)のバカップルにつきあわされるジュリオが不憫…(そして、それに関して2枚も挿絵があるところに微妙な愛を感じる…)。物語は村を飛び出し、ラブラブ珍道中(オマケもついてますが)がはじまりそうで、これまた続きが楽しみ。ヴィオナの食えない長兄ロレンツォ、初登場の次兄マテオ。このふたりも腹黒でいいとこ取りそうで楽しみです。
汝、魂を秘める者たちよ
片山奈保子/小田切ほたる
(イラスト)・集英社コバルト本庫・【
bk1・
別窓版】
庭で不思議な石を拾ったシャナ。国王アルザスのある決断から逃げ出すために、その石の不思議な力によってシャナは深い眠りについてしまう。
今回のメインは「カドリア王国の隠された歴史」と「イクレシーヌの純愛」。後者はともかく、前者はおもしろかった。なぜ、シャナが王妃に選ばれたとか、銀の鳥プラナカーナの謎とかが明かされていって。やっぱり、こういう隠された、人の手によって作為的にゆがめられた真実の歴史っちゅうものは燃えますねぇ。昔の関係がシンクロして今につながっている(=(微妙な)転生?)ってのがいい。
「イクレシーヌの純愛」側もラストが泣かせるエンディング…。個人的には<→すっぱりきっぱり殺された方が後味すっきりでいいかなぁ。だって、生き残っていたら変に復活していいものになってたら嫌だ…←>。悪役には最後まできれいに悪役に徹してほしいものです…。
サンクトゥスは歌えない 翼に降る灰
漲月かりの/都筑せつり
(イラスト)・角川ビーンズ文庫・【
bk1・
別窓版】
新しく<紅狼>のトップについたリョウ。彼は天馬の古い知り合いであった。元から<紅狼>に多大な興味を持っていたパピヨンと、もたざるを得なくなった天馬。折良く、リョウに逮捕状が降りることとなり、ふたりはその担当につこうとし…。
完結編。
衝撃的(?)な幕切れだった前作を引き継ぎ、パピヨンや天馬の過去が明かされていきます。ラストがちょっと後味悪くて苦手…。でも、話の流れとしてはあれがbetterな終わりかたかもしれないし。読んでる間、催眠術ってあんなものでいいのか!というちょっとしたツッコミが頭の中によぎってしまった。
ああ、なんだか消化不良のあらすじと感想…。