2002年10月の本の感想
水晶玉と伝説の剣
ヴィクトリア・ハンリー/多賀京子
(訳)・徳間書店・【
bk1・
別窓版】
アーチェルド国の王女トリーナ。父王が戦争に勝ち、彼女に持って帰ってきたのは不思議な水晶と亡国ベランドラの王子ランドン。水晶のおかげで先見の力を手に入れたトリーナは、邪悪な陰謀に巻き込まれる。
あらすじ、書きにくい…。児童書だけど、、大人が読んでも十分満足できるほど内容が濃い。どろどろとした宮廷の陰謀、あっけなく死んでいく人々、(すこし燃えにくかったけど)国家間戦争。オマケに、じれったいすれ違いロマンスまであるという…。第1部はとにかく、みんなの身に起きることが辛くて、読み進めにくかったけど、第2部は読むのを止めることができないほど熱中してしまった。トリーナの微妙に王女な振る舞いが最後まであんまり好きになれなかったんだけど、それを差し引いてもいろいろと満足できる一品。
無理矢理政略結婚、結婚相手からの必死の逃避行、身を隠しての田舎住まい、名を偽っての傭兵業(のようなもの)、三角関係(?、<→ダーミスはトリーナに惚れてる←>と思うんだけどな…)など、十分コバルトでも通用すると思う。あとは…、タイトルにもなってるくせに、伝説の剣の存在感が…、哀れ。
太陽の石 月の石
樹川さとみ/佐々木潤子
(イラスト)・集英社コバルト文庫・【
bk1・
別窓版】
ノーダゲッツ一族の総領娘・ディアラは、"怪力女""いきおくれ"などといわれながらも、普通の少女として過ごすことを夢見ていた。そんな彼女に対し、半年以内に結婚相手を見つけ出さなければ、一族のために骨を埋めろという父親。ディアラは父親の挑戦を受けて都に向かった。
樹川さんの読み切り作。まえに読んだことがあるのだけれども、また図書館で借りてしまう。
結婚相手を捜しに来たはずなのに、いつの間にか謎の猟奇殺人事件を追いかけるハメになったディアラ。その関係で、なぜかディアラを口説きまくる謎の青年ギィ。2人の微妙な関係がおもしろい。何よりも、ディアラの狸親父がいろんな意味で素敵。特に、勘当された理由が…、爆笑。トントントンとリズムよく話が進んでいって、読後のすっきり感もいい感じなので、おすすめ
The Beans vol.1 -The Sneaker 12月号増刊−
角川ビーンズ文庫
ビーンズ文庫一周年を記念してか、スニーカーの増刊号として。全部で440ページくらいあるのだけど、そのうち177ページは津守時生特集。実は、この人の本は読んでいないので前半はすっ飛ばす。津守さんのをどけると、短編9本、エッセイ2本にマンガ2本。
2人のノワール 志摩友紀/さいとうちほ
(イラスト)
ローゼンクロイツの短編ですね。セシルがもらったsosの手紙。セシルと、そして彼を心配したオスカーが事件解決に向かい…、といった話。オチが、信じられません(苦笑)。挿絵がゴージャス。
ローゼンクロイツ 黒公爵と仮面の婦人 さいとうちほ
ローゼンクロイツの一冊目の某場面(ある意味では、クライマックスより重要か?!)の漫画化。視覚的に訴えられると、やはりこのお話はグランドロマンなんだ、と痛感。この調子で、普通にまるまる一冊マンガにしてくれないかな…。
息子はマのつく自由業? 喬林知/松本テマリ
(イラスト)
マのつくシリーズ。母親から語られる、有利誕生秘話。両親のナレソメが普通じゃないところが、やっぱりマのつくシリーズだな。実は○○が△△だった!という、ある意味驚きの事実がこんな明かされて…。次男はさわやかだし、お母さんの性格が素敵すぎる…。
バルビザンテ 暁の宝石姫 高殿円/椋本夏夜
(イラスト)
『
我が王につぐ』のアンナマリアが、夢の中で出会った宝石の姫が明かすパルメニア王国・初代国王オリガロットのお話。オリガロットとエリシオンのちょっとした恋物語とか、残されていく者のやりきれない思いとか、短いながらもぎゅっと凝縮されていて個人的に大満足。普通に文庫で初代のお話がでることはないのかな?
と、いつも読んでいる人たちのを先に読んで、残りはぼつぼつといこうと計画中。読んで気が向けば、感想追加かな。雑誌全体としては、特集にページさきすぎ…、ってな感じ。せっかくのビーンズ雑誌だから、ビーンズで書いている作家さんたちの方をクローズアップした方が、私としてはうれしいんだけど。”売る”という商業面から見れば、これは仕方のないことだとは思うんですけどね。"vol.1"とのことなので、次もあるかも知れない。そのときは、ビーンズの看板作家さんたちがもっと目立ってますように。
犬が来ました 〜ウェルカム・ミスター・エカリタン〜
松井千尋/密村ハル
(イラスト)・集英社コバルト文庫・【
bk1・
別窓版】
イギリス留学中の松本家の長男・東吾の友人エカリタンが日本にやってきた。しかし、なぜかエカリタンは犬になっていた。彼の世話役を任された三男・圭吾は、犬になっても傍若無人なイギリス貴族エカリタンに振り回される。
表題作に関係のある三作がおさめられている。2作目の『カラコロ』は「犬か、犬か、犬なのかっ!?」とドキドキしながら読むことができた。微妙な三角関係の切なさがよかった。『緑の犬』は、とにかくプラス思考に生きる少女と、呪われた運命を持つが故に素っ気ないエカリタンの領主の心通い合う物語。とりあえず、3作とも「犬」。どれもこれもよかった。お気に入り。
精霊の歌う夜 サンク・ヴェリテの恋人たち
橘香いくの/江ノ本瞳
(イラスト)・集英社コバルト文庫・【
bk1・
別窓版】
シャロンはラウールの婚約者としてリアンクールに滞在するも、ラウールの部下たちは不満顔。精霊祭をラウールと過ごすことを励みにいじめに耐えてきたシャロンだが、王宮で不穏な動きあり、との報にラウールはローランスに発つと言って…。
以前でた読み切り作の続編。「2人のその後の生活が〜」などと、向こうの感想でほざいておりますが、まさしく内容はドンピシャ。ラウールが「王子様」でかっこいいっす。普段、沈着冷静な彼が、ヤキモチを焼く姿はなんだかいい…。ラブがてんこ盛りの一冊。
橘香さんのサイトを見ていると、このあとブローデル王国は大変なことになるとのこと。そこら辺の内乱とかのあたりまで本が出ればいいんだけどなぁ。実のところ、『
コラリーとフェリックス』シリーズもいいけど、こっちの方もお気に入り…。副題ついてるし、シリーズ化しないかな。
青山電脳ヒミツ倶楽部
小沼まり子/COM
(イラスト)・集英社コバルト文庫・【
bk1・
別窓版】
マンション管理人である歩の父親の新しい仕事先は、青山にある超高級マンション。家族もろとも引っ越してきたマンションの最上階にすむのは、とんでもない有閑高校生。そんな彼らに目をつけられた歩は、彼らの”倶楽部”に参加することになり…。
4人のとんでもない有閑金持ち高校生に振り回される歩が哀れな一冊。「青山ヒミツ倶楽部」という、チクリや裏情報を世間に暴露するという裏サイトの運営者の一員に組み込まれてしまう歩が、その天才的な頭脳を発揮する。
と、そのような話なんですけど。家族愛ありのなかなか感動モノに仕上がっているのではないでしょうか?
「高校生の分際でBMWのバイクゥ?」(←ちょっと腹立っているので口調が乱れている)などと、小市民には理解できない金銭感覚を持つ彼らの活躍、読んでいてそれなりに爽快感は感じられる、かな…?たぶん、コメディ。
疾風のアイン アグラファ3
三浦真奈美/那知上陽子
(イラスト)・C-Novels Fantasia・【
bk1・
別窓版】
アティスからの独立を求めるリグリアの海軍(?)の指揮を執るアインは、打倒アティスに向けて、着実に体制を整えつつあった。北方の大森林の砦で、蛮族の侵入を防ぐミオ。彼は本国の命により帰国後、父にかけられた嫌疑を晴らそうと奔走する。
今度はアインが表紙。しかし、この表紙は…、ある種怖い…。少し買いにくかったぞ。
それはさておき。前回も燃える展開だったけど、今回も燃えまくり。こういうあつい展開は大好き。偉いさんと現場(前線)のギャップ、というか、えらい人の思惑に引きずれて現場が理不尽な苦労をするという展開は、読んでいて腹立つけど好きなので…、今のところいい感じ。次はいよいよアインvsミオ、かな?破竹の勢いで勝利を重ねるミオが、海戦達人のアインにどう立ち向かうか、こうご期待。失敗。読了後もドキドキしていてなかなか寝付けなかった。
花降る千年王国 ゲルマーニア伝奇
榛名しおり/椋本夏夜
(イラスト)・角川ビーンズ文庫・【
bk1・
別窓版】
『柳の籠を燃やすフランク』の族長の姪・リンゼは、同盟のため『深き断層のフランク』の族長の次男・ヘルマンに輿入れする。しかし。リンゼは輿入れ先で全く歓迎されていないことを敏感に感じ取ってしまう。
女の子が主人公、元気、かわいい、健気と四拍子そろっていてる作品。ヘルマンの煮え切らない態度が読んでいてうっとうしい(失礼)けれども、その理由を知れば納得。ヘルマンの護衛のルクレティウスの不器用な心遣いが少女心をくすぐる様はほほえましいな。最初いきなり十字架貼り付けから始まってびっくりしたけど、物語全体を通して読むと、あの場面もさほどびっくりする必要もなかった…。<→ヘルマン兄・オーシンがなぜかお気に入り。あんなちょい役じゃなくて、もっと出てきてほしい!←>次があるのなら、<ネタバレ>部分を含めて期待。
実は、ホワイトハートからでている『メロヴェ』シリーズの裏舞台というか、同時進行というか。あちら側を読んでいても全く問題はないけれども、読んでいたら、ちょとした場面に少しうれしくなってしまえるというおまけ付き。
黄金の都のスルタン ローゼンクロイツ
志麻友紀/さいとうちほ
(イラスト)・角川ビーンズ文庫・【
bk1・
別窓版】
誘拐されたセシルは怪しげな薬で記憶を失い、目が覚めたら東大陸の帝国ナセルダランの奴隷小屋にいた。偶然その場に居合わせたアルマンの陰謀で、スルタンへの贈り物として献上されるセシル。型破りなスルタン・ファルザードは母親との確執が絶えず、セシルもその渦中に飲み込まれる。
王道、グランドロマンのローゼンの新作。記憶喪失かつ思い出の少女に面影を重ねてみる、という何ともベタな展開がいい(今時探してもそんなに見つからんからね…)。奴隷小屋といえば、男のセシルがどうやってあそこを乗り切るのか、ということを少し期待して読んでいたのだけど(もう、吹っ切れた。男でも女でもいいや、この話は)、やっぱりそうきましたか…。影の恐ろしく薄いダンナ、今度はセシル救助に向けて目立って下さい。
野暮なツッコミ:<→国の要職(というか、実質国動かしているの彼ですよね?)が、お忍びとはいえあんなに身軽に他国に乗り込んでいいものなのでしょうか?アルビオンといい、今回といい。結局はローゼンクロイツだからまあいいか、というのが私の結論ですけど…。←>
きっとマのつく陽が昇る!
喬林知/松本テマリ
(イラスト)・角川ビーンズ文庫・【
bk1・
別窓版】
渋谷有利は友人の村田健と海の家でのアルバイト中、またしても眞魔国に召還されてしまう。しかし、今回迎えに来たコンラッドはいつもと違ってなにやらあわてている様子。すぐにユーリを送り返そうとするコンラッドたちの善戦むなしく、今度は敵国にたどり着いてしまい…。そしてそこにはなぜか見知った顔が…。
一気にシリアス展開のまるマシリーズ最新刊。のっけから大変なことに。<→次男贔屓の私としては、大変重大な事件が起こっております。次で帰ってくることを祈って…。普段毛嫌いしている三男が、ユーリと次男を思って泣きまくる、というシーンには少しやられてしまった。←>一緒に流された彼、どうやらとても重要なポジションにいるようです。ここも気になるな。唯一の心のオアシスはマッドマジカリストのアニシナさん。やっぱり彼女は好き。
華胥の幽夢 十二国記
小野不由美/山田章博
(イラスト)・講談社ホワイトハート・【
bk1・
別窓版】
理想の国を夢で見せてくれるという華胥華朶の枝。その理想の国に才国が近づくことを願っていた麒麟・采麟は、失道の病の床にあった。
短編集(5作入)。
タイトル作ともなっている『華胥』は、理想の国を実現しようとする”王”が必ずしも成功を収めるわけではない、というかなり切ない話。理想と現実のギャップとそれに苦しむ官吏たち、華胥華朶の枝が持つ本当の意味、滅び行く王朝、哀愁漂う濃厚な読み切り。
『冬栄』は泰麒が使者として漣国に行くお話。泰麒が、めちゃくちゃかわいらしい。悩殺もの。廉王と廉麟のらぶらぶっぷりも見事。廉王と言えば、ある意味伝説に残る有名な初勅をだしたお方。ああ、この人なら出しそうだな、と言う感じの好青年だった。ほわわんとした、心温まるお話。
『書簡』はは陽子と楽俊の文通大公開。王として一歩ずつ進んでいく陽子と、大学生として新しい道を歩み始めた楽俊の秘密の手紙…(?)。こっちも心温まるお話。楽俊の後ろに見え隠れする雁国コンビがいい。
『乗月』は祥瓊が去った後の芳国の物語。『帰山』は利広と”あの人”の競演。そして、宗王一家の謎が今明かされる。一家のあの”特技”には思わず笑いが…。
とにかく、おもしろかったな。続き早く読みたいです。