2006年1月の本の感想
オペラ・カンタンテ 静寂の歌い手
栗原ちひろ/THORES柴本(イラスト)角川ビーンズ文庫【bk1・amazon】
不死者を探し旅を続けるカナギと、いつの間にかその道連れとなった元暗殺者の少女ミリアンに謎の詩人ソラは、「不死の法」を得た魔術師が住むという城を訪れる。そこで、詩人は魔術師と魔術勝負をすることになり……。
オペラシリーズ第二弾。今回はカナギのライバルっぽい人は登場するし、詩人の謎も解明されでかなりの進展をはたした模様。それにしても、このシリーズはシリアスなのかコメディなのかよく分からなくなってしまいます……。物語の根幹は重たいはずなんですけど,
漫才のような掛け合いが全てをぶちこわ、雰囲気を和ませすぎています(でも、こういうところも結構好き)。詩人の実力が本当に彼のいっているように「運」ならもう笑うしかない。
個人的には「ぐいぐいと引き込まれて読むのが止まらない」という類のシリーズでは決してないのですが(読了までにかなりの時間がかかった)、でも、この独特な世界は結構好きですので、次もそれなりに楽しみ。
星宿姫伝 しろがねの追憶
菅沼理恵/瀬田ひなこ(イラスト)角川ビーンズ文庫【bk1・amazon】
斎宮として認められた白雪は、各国の代表者を招いて行われる斎宮お披露目の儀式に臨むことになる。そこで、死んだはずの父親にそっくりな朱里と名乗る青年に出会い……
想像の数十歩先を行くような展開に思わず唖然のシリーズです。えーと、そう来るんですか……。
もやもやとしていた裏事情が一気に明かされるお話でした。白雪が斎宮としての決意を固めた矢先に訪れた騎士と千白との軋轢、白雪が知った神杖国とその周辺の国の状況。もちろん、全てが丸く収まるような事態ではないだけに、今後白雪がどのような決断を下していくのかがそれなりに楽しみです。で、ラブ面では、これはもうどうとでもなれ、みたいな。ここは穴狙いで隣国の次代様に賭けておこうな……。
ごちゃごちゃしすぎて個人的には明らかに好みの話じゃないのに、どうしても読んでしまうのはマイナス要素を上回る魅力があるからでしょうねぇ。
迷宮の記憶 コラリーとフェリックスのハネムーン・ミステリー
橘香いくの/四位広猫(イラスト)集英社コバルト文庫【bk1・amazon】
旅行の途中で立ち寄った街で、老婦人から数年前に亡くなったクリスティーナという少女と間違われたコラリー。老婦人の甥エットーレの懇願もあり、しばらくの間クリスティーナを演じることになったコラリーは……
いつものように、コラリーのお人好しが遺憾なく発揮された結果事件に巻き込まれてしまうこの展開がおもしろかったです。クリスティーナの死の真相が徐々に明かされていく過程は、どんな真相がっ、と楽しみながら読むことができました。深読みをしない読み方なのでミスリードされまくりでした。
そして、今回(クリスティーナのふりをする)コラリーとくっつけられそうになったエットーレの弟・レオ青年がなかなかに好印象。今までコラリーにまとわりついてきたダンナや某怪盗などと比較すれば一番まともではないのかと思うのですが(笑)。
海の上の暗殺者 コラリーとフェリックスのハネムーン・ミステリー
橘香いくの/四位広猫(イラスト)集英社コバルト文庫【bk1・amazon】
結婚式を終えてその足で船旅での新婚旅行に出かけたコラリーとフェリックスは、飛び入りの旅行のために客室が別々になるという第一のつまづきに遭遇した。その上、コラリーに意味深なメッセージカードが送りつけられたりと第二・第三のつまづきが次々と起こり……
コラリーとフェリックスの新婚旅行編。やっぱり新婚旅行でも一筋縄でいくはずもなく、事件に(自発的に)巻き込まれていっているコラリーたちが楽しかったです。フェリックスの相変わらずの暴言垂れ流しもおもしろかったです。フェリックス君、以前まではそれなりにストッパーがかかっていたのか、結婚によってそのストッパーも外れておりまして、コラリー一直線振りに拍車がかかったといいますか。
今回の二転三転する事件の真相は、なんとなーくこれかな、と思うことはあっても最後まで楽しく読むことができました(あまり深読みしない読み方だし……)。今後の旅の道連れは、食えないおじいさんとフェリックスの腐れ縁のキザ男・ジュリアンでしょうかねぇ。
空よりも青く染まれ
片山奈保子/竹岡美穂(イラスト)集英社コバルト文庫【bk1・amazon】
湖冬のクラスにやってきた転校生の海斗はは、人気アイドルの双子の兄だった。そのことにコンプレックスを抱く海斗は、湖冬も同じような人間だろうとの誤解から……
表題作のほか、ベアを通じた女の子の友情を描く「お日さまの顔で会おうよ」、ねじれたベア作家vs.純情な女の子の「花振る野に君がいた」の3作収録。
ベアを通じたきゅんとくる物語のことはたしかなんだけど、本誌で読んだときよりもおもしろみを感じられなかったのは3つ連続で読んだせいか、一度読んだことがあるからか。しかし、中学生の揺れる微妙な心情などに思わずじんと来てしまい、マイナス要素を考慮しても読めてよかったなぁと思います。「さよなら月の船」と同じように、超常現象なしの中学生が主役の現代物のほうがおもしろいと感じる私は異端でしょうかねぇ。
現代もののセンシティブストーリーとしては割とお勧めです。
神を喰らう狼
榎田尤利/北畠あけ乃(イラスト)講談社X文庫WH【bk1・amazon】
閉ざされた美しい島で育ったボーイは、時折島を訪れる自分にそっくりの青年フェンと会えることだけを楽しみに幸せに生きてきた。自分の存在はフェンのためであり、全てはフェンのためだと盲目的に信じ続けるボーイだが、そのボーイの世界は少しずつ崩れていく。
あきさんや
dahliaさんの感想を拝見して気になっていた作品なのですが、おもしろかったです。カタストロフィーによって一度崩壊した近未来が舞台のSFテイストの物語かな。
ボーイの心の内が淡々と綴られていくので、最初数ページはなんじゃこの内向的な描写はという感じだったのですが、読み進めていくうちにそんなこと全く気にならなくなり、ページをめくる手が止まらなくなりました。フェンと世話係のキナさんだけだったボーイの世界がリトルと出会うことによりどんどん広がっていき、そして最後は、という流れが非常にきれい。扱っている題材もクローン問題ということで、考えさせられる問題も何点か。
静から動へのはじまりの物語、今後ボーイがどのような道を歩んでいくのか楽しみです。
ザ・イノセント・キングダム 龍の玉座
喜多みどり/凱王安也子(イラスト)角川ビーンズ文庫【bk1・amazon】
アルマニノに盗み出されていた『遠見の書』がシオロ王国に返還された。シオロの次期国王ルーファの前に現れた『遠見の書』は体中に封じの入れ墨を施され、口を縫われ目を隠された女性の姿をしており……
『龍の王女』の続編で、たぶん完結編。今度の主役はクレシャナの弟で次の国王であるルーファ。龍の国であるのに龍が非常に苦手なルーファのトラウマと、お家騒動、そして『遠見の書』を巡る事件が描かれています。前作ではルーファはかわいい”猿”(っぽいもの?)だったので人型のルーファには若干の違和感。
『遠見の書』の正体は、クレシャナになついているお陰でだいたいの予想はすぐについたものの、事件そのものの顛末は、どんなからくりなんだろうなーと楽しみに読めたのですが、いかんせん全体的にパンチに欠けまくり「これ」といったものを感じられなかったのが残念。人気あるから続編作ってみたけどイマイチの典型例のような気が……。
恋のドレスとつぼみの淑女 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー
青木祐子/あき(イラスト)集英社コバルト文庫【bk1・amazon】
ロンドン近郊の小さな街にある仕立屋・薔薇色。主人のクリスが作るドレスは恋をかなえる「恋のドレス」として社交界の一部の人々にもてはやされていた。そんなクリスに元に、妹のドレスを作って欲しいと公爵家の青年が訪ねてくる。
イギリス舞台、健気そうな女の子が主人公ということで楽しみにしておりましたが、おもしろかったです。普段はおとなしくて控えめで人見知りをするクリスがドレスのこととなると妥協を許さず、プロ意識を持ってドレスに向かう姿はかっこよかったです。クリスの親友で性格は正反対だけど本当にクリスのことを大事にしているんだな、という男気溢れる(?)美女のパメラ、貴族らしい横柄さ(?)の中にかいま見られるお茶目なところがなかなかいいな、のシャーロクなど登場人物も魅力的。
不思議の力は働いていない物語と思っていましたが、どうやらそうではないみたいですねぇ。なんとなく、不思議な感じのするといいますか(説明が難しい)。悪役は悪役でこれぞ悪役みたいな人がおられますし、まだまだシリーズとして続くようですので続きも読んでみたいです。