2003年5月の本の感想
魂守記 −頭蓋骨は秋空を見上げる−
渡瀬桂子/火田千捺
(イラスト)・集英社コバルト文庫【
bk1・
別窓版】
恭一は、代々続く魂守(たまもり)の一族の末裔。ある日、学校の帰り道、彼は曰く付きの”蛇坂”でしゃべる骸骨を拾ってしまう。その骸骨は、三年前の女子高生殺人事件と関係のあるらしく……。
掲示板にてオススメされた作品で、渡瀬さんのデビュー作。諸処の事情で自分の殻に閉じこもりがちな恭一が、その殻を破って高校生らしくなっていったラストはさわやかで好き。「日野さん」のいい人ぶりがすさまじく、彼のしゃべる場面ではおもわずのほほん、としてしまうけど、実際にそのシーンを想像するのは……、やめておこう。実は、サブタイトルとかからおどろおどろしいものを想像していたんだけど、そういうこともなく楽しめた。オススメして頂いて感謝。イラストがすこーしだけ微妙。あんまり好みじゃないといえば、それだけなんだけど。やはりコバルト文庫ではイラストは重要要素だと思うのです。ま、ぶっちゃけ内容良ければ絵は結構どうでもいいんですが、良いに越したことはない、ということで。
残光のアティス アグラファ5
三浦真奈美/那知上陽子
(イラスト)・中央公論新社C-Novels Fantasia【
bk1・
別窓版】
リグリアとアティス、両国がそれぞれ戦勝の報に沸いていた。しかし、それぞれの司令官は結果には満足できない。司令という肩書きに自由に動けないアインは、捕虜になった仲間を助けたいと行動を起こそうとするが……。
なんやかんやでこの巻はそんなに動きはなかったかな、と思ったけど、海賊さんサイドはアインの身近な人がなんだかダークな感じになってきております。でもって、ユリアはやっぱり好きになれない、怖……。ミオもアインも、なんか知らんけどしょっちゅう運命の再会をしますが(注:やましい意味はありません)それより何より、レシェフとシディの謎が深まるばかり。まだしばらく続きそうな雰囲気で、一気に風呂敷をたためるような感じでもないので続刊が楽しみ。
双霊刀あやかし奇譚 1
甲斐透/左近堂絵里
(イラスト)・新書館ウィングス文庫【
bk1・
別窓版】
地方の有力者の娘・早苗は強盗が家に押し入ったとき、偶然つかんだ脇差に命を救われる。その脇差は、二人の”幽霊”が取り憑いているという曰く付きのもの。早苗は吉光と兵衛介という二人の不思議な幽霊に出会い、奇妙な事件に巻き込まれていく。
イチオシの甲斐さんの新作。今までのものとはがらりと変わり、大正時代の日本が舞台。あらすじでは”幽霊”などと書いていますが、微妙にニュアンスが違うんだな、あの二人は。どう表現すればいいのか(迷ったから、幽霊にしておいた(笑))。早苗の元気の良さと、長女だから味わう理不尽さ、たった”ひとこと”でいいからかけてほしい言葉をなかなかかけてもらえない寂しさがひしひしと伝わってきた。早苗のまっすぐさがすごく気持ちのいい作品。”1”ということだから続きも出そう。これの続きもすごく楽しみなんだけど、個人的には『金色の明日』の続きもすごく読みたい……。
幻の将軍 (上下)
河原よしえ/いのまたむつみ
(イラスト)・エニックス EX NOVELS文庫【
bk1・
別窓版】
平和な国・シェンの鍛冶屋の娘フレイは、まるで少年のような15才の少女。幼なじみのアルセスと共に、父親が作った”伝説の剣”を大国アシュに届ける際に、船は嵐と海賊に襲われ二人は離ればなれに。フレイはアシュの軍船に助けられ、行方不明だったアシュの将軍・フレイオス・リズ王子と間違われてしまう。アルセスを探すため、フレイはフレイオス王子のフリをし続けることを決意した。
ツボです、全てがわたしのツボです。ジャストミートです!
(あまりにもはまったため、冷静に感想が書けません・笑)元気で健気な女の子が主人公である点とか、副官さんがかっこいい点
(ここ最重要ポイント)とか、戦争しつつもなぜかきちんと最後はむふふな終わり方だった点とか。『
アグラファ』とか『
異端者シェン』
(つ、続きでないんですか?これ)とかと、似ているようで似てない感じ。
フレイが男女かまわず慕われまくる、という「天然無自覚タラシ将軍」と化していて、おもしろかった。その最たる人が副官さんかな。セクタクの運命はフレイを拾ったときに決まったようなものですな……。
ストーリーは、予想どおりの展開といえばそうなんだけど(ついでに言うと、いろいろとぬるいかも知れない)……、でも、こういう展開好きだから別に気にならない。でも、アルセスの扱いはあんまりかも……、と思ってしまったり。
さよなら月の船
片山奈保子/竹岡美穂
(イラスト)・集英社コバルト文庫【
bk1・
別窓版】
中学生のゆずは離婚した母親と二人暮らし。父親ともときどき会い、そこで父親の再婚相手である夕月さんを紹介される。中学校では複雑な家庭事情を抱える陸上部のホープ遠藤くんが気になって……。
『
汝』シリーズとか、『
シャドー・イーグル』シリーズの片山さんの読み切り作品。普通のどこにでもいるような中学生の悩める日常を綴ったセンシティブストーリー。前出のシリーズとは違い怪奇現象など一切出てこず(笑)、身近な問題が取り上げられている。自分とは全く正反対の母親とのすれ違い、なんだかちょっと気になる男の子、など、本当にさいごまで丁寧に描かれていた。取り扱っているテーマがかなり重たいはずなのに、終始沈んだ雰囲気にならないのはイラストレーターさんのあったかいイラストと、片山さんの優しい文のおかげだろう。上手くいえないけど、何となく好きな作品。
半身なる宿命のアモル ゲルマーニア伝奇
榛名しおり/池上紗京
(イラスト)・講談社WH X文庫【
bk1・
別窓版】
クィントゥスの部族に迎え入れられたメロヴェは、婚約者としてクィントゥスと行動を共にする。そして、同時に自分が特別な力を持たないということで悩み続け、母親と対峙することに一抹の不安を抱える
素直におもしろかったと思うし、ララ・ルネとクィントゥスの対決、ゲルマニアとローマの対決も間近になったということでかなりわくわくな展開なんだけど……、メロヴェ、悩みすぎ……。いや、彼女の悩みが物語のかなり重要な部分を占めているということについては理解できますし、それは必要なことなんだと思うんだけど、とにかくうじうじ悩みすぎなんだ(個人的にこういうのが苦手だし)。ゲルマニアの価値観で悩むメロヴェと、ローマの価値観で慰めるユリウス、そして泥沼という構図はなかなかおもしろかったのだけどね。クィントゥス応援派としては、このままぶっちぎってほしいけど、そうも行かないような気がするし、謎の男(人物紹介に出てる割にはまだ再登場の気配なし)がどう絡んでくるか、など今後も見逃せない。
幻月影睡 斎姫異聞
宮乃崎桜子/浅見侑
(イラスト)・講談社WH X文庫【
bk1・
別窓版】
帝は譲位のことで悩み、体をこわした。帝の容態を案じる宮と義明だが、今は亡き安倍晴明の弟子である蜻蛉は、帝が崩御するときこそ夜刀神を封じる絶好の機会だと主張する。
斎姫異聞の第1部最終巻、そう、第1部なんですよ。てっきり今回キレイさっぱり終わると思っていたんだけど。邪神・夜刀神との因縁の対決に一段落ついた模様。義明と宮との関係は前進どころか後退しまくっているような気がしますが、あー、ここまで来るのが長かった。徐々に人間くさくなっていく宮がいい感じだった。さて、新たに正体不明な月からやってきた新キャラなど現れて、2部に続くそうだ。べつに、あれとかこれとかのいろいろを付け足したりせずにいたらこの巻で終わり、ってしても十分いけるような気がしなくもないんだけど……。正直言って、いつまで続くねん、という気分(笑)。
シャドー・イーグル5
片山奈保子/亀井高秀
(イラスト)・集英社コバルト文庫【
bk1・
別窓版】
真澄は自分の道を広げるためにひとり暮らしをはじめ、章とおなじ喫茶店で働きはじめる。ある日、喫茶店に章の昔なじみの女性が現れる。その女性と子どもの存在が真澄の心に大きくのしかかる。
今回はいつもどおりの暴走した土地神の物語にDV問題が大きく絡んでいる。この辺の問題の取り扱い方と、真澄の心との兼ね合いは上手く料理されていたかなぁ、と思うのだけど……、こういう社会的問題のところはいいんだと思うんだけど……、肝心の「土着の神さまの暴走」部分は少し物足りない感じ。あっけなさすぎるのかな?せっかく骨組みの設定はおもしろいのに、そのメインの部分をもうちょっと生かした造りになっていた方がもっとおもしろいのになぁ
Z戦場のマイ・フェア・レディ
野田麻生/みずき健
(イラスト)・角川ビーンズ文庫【
bk1・
別窓版】
遊園地の国クレメールの仕立屋の娘アニエスは、一見美少女、まっすぐな性格の看板娘だが、救いようのないセンスとがさつな物言いが玉に瑕。ある日見知らぬ男に襲われたアニエスはなじみの客・ミナイに助けられるものの、気付いたそこは動物園王国のバスティアスだった。
前作と同じ世界観での違う物語。前作を読んでいなくても十分楽しむことができるけど、ゲストキャラやちょっとした描写にむふふ、と含み笑いができるので前作を読んでいると少しお得。ベースになっているのは有名なミュージカル(とか、映画とか)の『マイ・フェア・レディ』で、その部分の生かし方もいい具合。アニエスのひたすら前向きな性格が読んでいて爽快だった。
マリアさまがみてる 真夏の一ページ
今野緒雪/ひびき玲音
(イラスト)・集英社コバルト文庫・【
bk1・
別窓版】
リリアンと花寺学院の学園祭を前に、山百合会のメンバーはどうしても乗り越えなければいけない壁があった。それは、祥子の男嫌いを克服させること。当の祥子をのぞいたメンバーは、彼女にこの問題を克服して頂くべく秘密作戦を決行する。その名も「OK大作戦(仮)」。果たして、その結果は……。
夏休み第2弾。今回は男性陣がたくさんでていおもしろかった。
(男の人がでているやつは読まん!という人がいるらしいけど(あとがき参照)。わたしは男性陣が出てくる方が何となくおもしろいと思う。山百合会のメンツが際だって……。いや、それよりも、マリみてにでてくる男性陣はみんなさわやかさんでかっこいいので、キャラクターとしても個人的に大変おいしいと思います(ただの好み……)
『略してOK大作戦(仮)』 祐麒くんと柏木さんが実は結構好きなので、個人的にすごく楽しかった。仲好し姉弟はやはりよいものだ……。今回は姉弟愛と姉妹愛と言ったところでしょうか。にしても、花寺の生徒会のメンツって、一体……。
『おじいさんと一緒』 白薔薇姉妹の夏休み、仏像展を見に行く二人に張り付く新聞部の格闘を描いた一品。あっと驚くどんでん返し。タクヤくんこう来るとは思ってもいませんでした。全てを知った上でもう一度読み返すというのもなかなかオツなもの。
『黄薔薇☆絵日記』 あまりのものかっこよさに令ちゃんの趣味を忘れていたのだけど、思い出した(笑)。本当に短いものだったけど、3作品の中で一番笑ったかも知れない。令ちゃんの日記とそれに対する由乃のつっこみ。
令ちゃんって白泉社の『
美女が野獣(マンガ、おもしろい)』の涼とキャラクター的には同じポジションかな。こういう一見ヅカの男役、中身オトメというキャラクターは微妙にツボでございます。
皓い道途 キターブ・アルサール
朝香祥/あづみ冬留
(イラスト)・角川ビーンズ文庫・【
bk1・
別窓版】
アイシアの救出と引き替えに、敵国の捕虜となったファラン。アイシアを見逃したという責めを受け、奴隷に身を落とされたサイード。アフドの巫女を得、エラーンのために苦渋の決断を下そうとするアルセス。三者のそれぞれの戦いは最終局面を迎えた。
一年間放置されていた末にようやくの最終巻。最終巻にふさわしく、圧巻な内容だった。かなり分厚かったけど、二回に分けて読むつもりだったけど、いつの間にか読み終わっていたなぁ。サルジェやアイシアなど、女性陣の”強さ”が目立って大変満足。特にサイードとアイシアの恋物語……、決着がついたようなつかないような、なんだけど、アイシアの口説き文句にやられました。サイードかっこよすぎです。次に、兄上の真の姿がかいま見られて少しびっくり。兄上はもしかしなくても、あちらの世界の人だったのですか……、いや、本当にびっくり。「誰よりもヒロインらしい」とか言ってしまって申し訳ない限り。
にしても、主人公(アルセス)より兄上(ファラン)やサイードの方が目立っていたような気がするのはわたしだけではあるまい(笑)。ショウジョショウセツ的正統派ヒロイックファンタジーがお好みなら、はずせないシリーズかと
緑のアルダ 荒れ野の星
榎木洋子/唯月一
(イラスト)・集英社コバルト文庫【
bk1・
別窓版】
東の半島に緑を取り戻すために、王都に向かって旅立ったアルダ・ココとその一行。その途中立ち寄った街は、同行者ウルファが連続殺人事件の犯人として指名手配を受けている街だった。ウルファの嫌疑を晴らすために、その街に逗留することにしていたアルダ・ココたちは……。
ウルファの気になる過去が少しだけ明らかに。そして、今のところ最強な新キャラ・カートラム卿の登場。こういう泰然として、なんか知らないけど余裕綽々な人って大好きだ……(たとえ、上手い具合になぜか権力を持っていて、それが話の都合上なんか便利に使われているというキャラだろうと……)。敵対する謎の魔法使いも登場、なんとなく先が見えそうで見えない話展開に、次のお話が待ち遠しくなる。
少年陰陽師 禍つ鎖を解き放て
結城光流/あさぎ桜
(イラスト)・角川ビーンズ文庫【
bk1・
別窓版
昌浩の加冠役である藤原行成が怨霊に襲われ、死の床についてしまった。恩人でもある彼をなんとか助けようと昌浩は奮闘するが、この事件の背後には謎の術者が一枚噛んでいるようで……。
「実家の七光り」と周りからやっかみをいわれつつも健気にがんばろうとする昌浩の姿が好印象。もっくんとの掛け合いもばっちり。そして、天然・彰子の六合との掛け合いがすばらしい(笑)。盛り上がるところはきちんと盛り上がっていて、でも、のほほんとしているところはのほほんと楽しめる、このバランスがいい感じ。巻頭の登場人物紹介にも、さりげない遊び心があることにこの巻で初めて気付いたり。
少年陰陽師 鏡の檻をつき破れ
結城光流/あさぎ桜
(イラスト)・角川ビーンズ文庫【
bk1・
別窓版】
左大臣の一の姫、彰子の入内が決定した。しかし、彰子は以前に妖から受けていた呪いを発動してしまう。彰子が無事に入内できるように、昌浩は痛む心を抱えながらその妖と対決する。
入内と言うことで、昌浩と彰子の関係が非常に切なかった。でも、それを押し殺してなんとしても彰子を助けようとする昌浩はかっこよかった。ついでにもっくんもやっぱりかっこいいなぁ。晴明と昌浩の(ある意味での)対決も読んでいておもしろい。いつか晴明に勝てる日が来るといいのにね、と思わず昌浩を応援したくなることは必死(笑)。
実はですね、二冊目の『闇の呪縛を打ち破れ』はまだ読んでいない状態で三冊目に突入。一応一冊完結型なので問題はないんだけど、やっぱり二巻目早く読まなきゃですな。