2002年11月の本の感想
流血女神伝 砂の覇王9
須賀しのぶ/船戸明里
(イラスト)・集英社コバルト文庫・【
bk1・
別窓版】
バルアンのためにシャイハンの統治するヨギナにやってきたカリエは、思いもよらないシャイハンの優しさに心揺り動かされる。一方、バルアンはシャイハンとの決着をつけようと、ついに動き出す。
最終巻にふさわしく、ものすごい盛り上がりぶり。バルアンの山登りの所はとにかくすごくて、言葉では言い表せないくらいの思いを味わった(一章といわず、これで本半冊位いっても私としてはうれしい)。個人的には、ジィキとヒカイの切ない物語に終止符が打たれたところが一番印象深い。あとはですね…、エドが帰ってきた(いや、前からいるけど…。登場人物紹介に返り咲き…)。そして、それなりの出番があって。最後の最後のカリエの決意など、とにかくめちゃくちゃ読み応えがあって次が来年の夏というのは待ち遠しすぎる。<→王子様好きとしては、バルアンが王子様であることは(いろんな意味で)許せないので(笑)、王子様っぽいミュカやエドとカリエはくっついてほしかったんだけど…、最後のあの文からは…(いや、もうくっつく/くっつかないという単純な問題でもないような気がする)。でも、今まで何となくバルアンは好きでなかったのだけど、今回で思いっきり見直した。今まであんまり好きでなくてごめんなさい、と謝りたいほどに。←>
レリック・オブ・ドラゴン イスカウトの相続人
真瀬もと/雪舟薫
(イラスト)・角川ビーンズ文庫・【
bk1・
別窓版】
契約上の主人・アンセルムの命でウェールズにあるイスカウト城を訪れたロルフ。古い伝説の残るその城では、”城の番人”のリチャード・クライブの命の火が消えようとしていた。
エドガーに仕えつつも、契約上の主人はアンセルムであるロルフがエドガーにふさわしい人物になろうと苦悩する様子と、ロルフを幸せにしたいがめに悩むエドガー、そしてエドガーとロルフに対し愛情とも憎しみとも言えない複雑な感情をもつアンセルムの3人の様子が印象的だった(注:決して怪しい感情ではありません)。
「イスカウトの相続人」の謎についても、色々事情が絡みあっていて興味深く読むことができたし、最後の方の戦いの場面は不思議なきれいな感じで、なんだかよかった。あとはですね、ロルフが友達になったダフネがすっごくかわいい!!一歩間違えればこまっしゃくれたガキになってしまうんだけど、その微妙なバランスがいい!!安らぎます。ミニ・ロルフもまたこれまたプリティーで(イラスト付。かわいいぞ)…。そしてとどめは前回同様愛玩ドラゴンのタフタフ。物語とは(ほとんど)関係ないところで大活躍。彼(?)の謎に包まれた生態がアンセルムによって少しあかされている。いいな、和む…。
なにやらアンセルムと旧知の怪しげな人物も出てきたし、ロルフの謎についてもでてきたし…、次が(あるのなら)楽しみだ。
海賊と人魚姫
榎木洋子/RAMI
(イラスト)・角川ビーンズ文庫・【
bk1・
別窓版】
海王の末っ子イル(未分化)は、三年という期限付きで陸に滞在していた。エアリオルともよい友人関係が続き、海の世界の宣伝に精を出す毎日。そんなある日、宇宙で海賊騒ぎが起きていることを知り、その解決に乗り出すこととなる。
この前のストーリーをこの前のいい加減なあらすじで補完し、いざ読み進めていく。
なんちゃってSFかつなんちゃってBLらしいが、前者はともかく後者は…。イルはますます男の子っぽくなっていくなぁ…。元気でかわいらしいからまあいいか。友情ものと置き換えて読んだらまだ大丈夫だし。
前回同様、ヒーローの位置にいる(らしい)エアリオルより謎の人ヴィンセントのほうがはるかに目立っている今回。登場人物紹介のエアリオルのあきれ顔がストーリーを如実に語っている。
お気軽にのほほん、と読めるお話なので、そういう気分の時に読んでみるのがいいかも。
眠れる女王 ラクラ=ウリガに咲く夢
鷹野祐希/清瀬のどか
(イラスト)・角川ビーンズ文庫・【
bk1・
別窓版】
大地に精霊の恵みを与えられ、長らえている大陸ラクラ=ウリガ。女王の夢だけが精霊をつなぎ止めている世界で、花学者グラド=ロゥがある日目にしたものは、女王として眠るサユヴァと異常な大きな赤い花。サユヴァと親しかったグラド=ロゥは女王の謎を解こうと旅に出る
あ、またあらすじがかけないや…。ビーンズ文庫の単発読み切りファンタジーです。
<花学者>という設定に興味を引かれた。滅亡の危機に瀕している世界の話なのに、グラド=ロゥがのほほんとしすぎて、緊迫感が薄れていくというギャップが何とも言えず(いい感じ)。過去と現在が交互に語られることにより、少しずつ明かされていく世界の謎など、読み応えはそれなり。いつの間にかクラド=ロゥにいいように使われていたバスク、実はかっこいいと思うんだけど微妙に活躍の場が少なくてかわいそうだ…。
ビーンズ的グランドロマンの話だそうで。私としては、こういう感じの話は大好きなので、これからもグランドロマン路線でがんばってほしいな。
金色の明日
甲斐透/桃川春日子
(イラスト)・新書館ウィングス文庫・【
bk1・
別窓版】
浮浪児のミオーニが出会った通りすがりの騎士ダニエル。ダニエルはミオーニに、食べ物といたわりの言葉をくれた。ミオーニの運命を変えたこの出会いは、ダニエルの運命をも変えることとなった。
あ、ら、すじが…、かけない。甲斐さんの最新作(雑誌掲載分+書き下ろしの続編)
1人の掏摸の女の子が、1人の騎士と出会うことにより戦局を動かすほどの働きをする。でも、彼女の行動の源は騎士への純粋な思いだけ。そんなストーリー展開がツボに入った。
とにかくです、ヒロインの少女・ミオーニがかわいくて健気で一途で元気で、読んでいてついついうれしくなってしまった。彼女のダニエルへの信頼や憧れみたいなものが丁寧に描写されていて読み応えは十分。あとは、かっこいいはずのダニエルなんですけど、その鈍感さ故にポイントが下がっている、というところがまたよろし。
とにかく、個人的に大ヒット。続きもあるようなので文庫化してほしいなぁ…。売れてほしいなぁ…。
海馬が耳からかけてゆく 1
菅野彰/南野ましろ
(イラスト)・新書館ウィングス文庫・【
bk1・
別窓版】
エッセイ集なので、あらすじもへったくれもありませんね。以前からとてもおもしろいという評判をきき、いつか機会があれば読んでみたいと思っていた一冊。とにかく爆笑の渦。本当におもしろい。でも、おもしろい中にもホンのときたま”ほろり”とくることがあって(本当に、不意に)、そのギャップでおもしろさが倍増してしまう…。弟さん関係のお話が、笑いすぎて涙が出てしまった。非常におすすめです。続きも読もうっと。
夏休みは命がけ!
とみなが貴和/浅田弘幸
(イラスト)・角川スニーカー庫・【
bk1・
別窓版
ある朝、幼なじみ(絶縁状態)の五郎丸を駅で見かけた瓜生。ただならぬ気配を感じ取った瓜生は、五郎丸の妹・綾に連絡を入れると、彼の部屋には遺書があり、祖父の猟銃がなくなっているという。バイトに精を出し、平穏な夏休みを送るはずだった瓜生の危険な一日が始まる
一言で言いますと、おもしろかった。瓜生が東京に着いたあたりから、いつのまにかヤクザに追いかけられ始めるなど、ジェットコースターのごとく次々と事件が起こっていって、どきどきはらはらしながら読んでいた。本当に命がけだ。表紙の瓜生君と、あらすじ紹介から「こいつはきっと、万能型のヒーローに違いない」と思っていたんだけど…、そんなことはない、(たぶん)どこにでもいるような高校生。そして、どちらかというとヘタレ気味(笑)。天才五郎丸の垂れ流し暴言はあまりにもはまりすぎてすごかったし、極限状態での瓜生の行動はあっぱれとしかいいようがないほどだった。あとは、…、あのオカマが…(ちょっとお気に入り)。
これは、冬に読むものじゃないな(笑)、夏に読んだ方がよりよいかも。あとは、寝る前に読んで失敗。読了後もドキドキしていてなかなか寝付けなかった。
東方ウィッチクラフト −彼女は永遠の森の中で−
竹岡葉月/飯田晴子
(イラスト)・集英社コバルト文庫・【
bk1・
別窓版】
柾季と一子の前に、再び上宇覧こと宇卵(ランラン)が現れる。"ウィッチボール"で柾季の過去を明らかにしようとする宇卵と、それにつきあう一子。一方、一子たちと別れた柾季は、どこか悟りきった小学生とぶつかって…。
怒濤の急展開。”ウィッチボール(ましろの占具)”で明らかにされる柾季と宇卵の過去。そして、以前からちらほらと名前だけは出てきていた”ましろ”の正体。幼い柾季はそれはそれはかわいくて、宇卵はあのままだった…。このお話で、以外な2人の確執が明らかにされる上に、どこかつかみ所のなかった宇卵が何となく理解できた。これまた、宇卵は爆弾発言をかまし、(元の姿に戻った宇卵って、実はかっこいいのでは…?)、最後の最後に悪魔な終わり方。早く解決編(最終巻)を読まねば!
カフェス幻想 帝王の鳥かご
紫宮葵/桑原祐子
(イラスト)・角川ビーンズ文庫・【
bk1・
別窓版】
ラスオン帝国には帝王の位につくことができない皇子を幽閉する”鳥籠”があった。その鳥籠で暮らすナイアードは、そこらの美姫にも引けをとらない美貌を持っていた。小姓のイクバルとともに心穏やかに暮らしていたナイアードであったが、思いもよらず陰謀に巻き込まれてしまう。
帝位につけなくて幽閉されている王子様…、なんて燃える設定。しかも、よくできる異母兄(皇太子)とできの悪い同腹兄…、おいしすぎる。というほどおいしいお話だった。そして、なんだかきれいで切ないお話だった。「できのわるい」皇子であるために、必死で周りに迷惑をかけようとしないナイアードのいじらしい態度が涙を誘う。ラストも、きれいにまとめられていて、いい感じだ。
しかし、あの、<→この世界はなんでみんな男が男のことを好きなんだ…?うー。やっぱりそっち系の人が書いているか仕方ないのか…?←>苦手な分野(下の感想の雰囲気参照)の直接的な描写と挿絵ありましたけど、まだこれなら許容範囲。
ダルリアッド 野望の果て
駒崎優/小田切ほたる
(イラスト)・角川ビーンズ文庫・【
bk1・
別窓版】
闘神ルーグによって不死の体を与えられ、死ぬことを許されず永遠の命をもてあますトゥーレ。ある日、トゥーレは森の中でレイバートという名の少年を助ける。彼を見守ることを慰めとしていたルーグだが、成長したレイバートは、はからずとも神々の争いに巻き込まれてしまう。
今回は神様サイドがメインかと。前巻ではイマイチよく分からない人(?)だったルーグの身内がいっぱい出場(といっても、3人)。前のあとがきで「トゥーレの幸せを追求うんぬん」とあったのに、前よりも辛い目に遭っていますがな。読んでいて、ルーグに思わず同情してしまった。話のラストとしては、前の方が好き。だって<→ハッピーエンドだからね、あっちは。←>
ええと、この話はおもいっきり男×男の話。どうしてもこういう系統が読めない、といのならあえておすすめしません。でも、そこら辺の描写は甘いし、何よりメインは2人の”すれ違い”の心情描写だから…、大丈夫かな。
魔女の結婚 永遠の夢見る園へ
谷瑞恵/蓮見桃衣
(イラスト)・集英社コバルト文庫・【
bk1・
別窓版】
マティアスの理解しきれない態度にいつもどおり腹を立てたエレインは、ミシェルと供に”ゆめみの森”を目指した。しかし、目を覚ますとそこにはエレインの知らない少女がいた。長い夢からエレインを起こしたのは自分であり、今までのことは夢であるという少女の言葉にエレインは混乱する。
前回あたりで影が薄くなったミシェルにスポットが当たる今回。といっても、マティアスも活躍してますが…。それぞれが、相手との信頼関係を取り戻す過程が丁寧に描かれていて、じっくり読むことができた。あー、一番”王子様”なステファンの出番は…、なかったな(涙)。あとは、謎に包まれていたバードの謎がまた深まったような。順番からいって、次はバードに焦点があたるばんかな。何のかんのいって、クライマックスではかなり熱々ぶりが披露されているけど、前よりも物足りない感じは否めない。だんだんと”自覚”を持ち始めたエレインやマティアスたち今後のカラミが楽しみ。
十六夜異聞二 影の王国外伝
榎木洋子/羽原よしかず
(イラスト)・集英社コバルト文庫・【
bk1・
別窓版】
崩壊の迫る月の影にある王国。元"月の王子"月留は新王イヤルドを助け、住人たちを救うための計画を着々と進めていた。王と人見の巫女の支配から脱却した月の世界で生きる人々を描いた後日談2本+月哉と瞳の話+オマケマンガ。
外伝、というか本伝ですね。月哉たちが去ったあとの月の世界、最後は活躍しきれていなかった月留が主人公(表紙も彼の単体)。挿絵の月留が、きらきらしていて美しい(笑)。そして、何というか、かっこいい…。ダル・シーやイヤルドもちょこちょこっと出てきていて、うれしい限り。
そして、3本目ではあのイヤルドにすら心配されていた月哉と瞳の物語。月哉ファンクラブの結成を知った瞳は、ついにある決心を…という話で、ほのぼのカップルぶりがいい感じ(いや、私はこれを待っていたんだ!!)。最後の月哉の漏らす笑みとか、幸せそうなところに青春っていいなぁ、としんみりしてしまった。
終わりの物語で、それぞれのはじまりの物語。これを読まねば、影の王国は完結しない。本編読了後は是非この外伝を。