香港シェヘラザード 蕾の義・花の奸 / 三角くるみ

本の感想, 作者名 ま行三角くるみ

香港の領事館に赴任している新人外交官の水城秋穂は、自分の職種に求められる役割と、新人かつ女性という理由から実際に割り振られる仕事との乖離に悩みつつも日々業務に取り組んでいた。ある日、領事館に妻が突如行方不明になったという男性が相談にやって来る。紆余曲折を経て警察から出向している木内とともに行方不明事件に関与できることになった秋穂だが、事件の黒幕である香港の有力黒道組織の幹部・袁立花に気に入られてしまう。

スリルとサスペンスと重たい愛のお話

もともとオンラインで展開[1]元のオンライン版も(本記事作成時点では)個人サイトで公開されていますされていた物語(シリーズ)の書籍化。当サイト的に端的に説明すると「新人外交官が、香港マフィアの美形幹部に目をつけられつつ誘拐事件の真相に迫るお話」なんですが、こう軽く説明してしまってもいいのかなと若干疑問に感じるお話でした。

結構な八方塞がり状態から僅かな手がかりを手繰り寄せて行方不明事件を追っていく秋穂たちに対し、秋穂たちをいなしつつ裏社会で暗躍する袁の周到さが際立っていて、秋穂が袁の手のひらの上で転がされているような展開にやきもき。あとちょっとというところで絶望的な展開に持っていくのは本当に鬼だな、と(褒めています)。
袁さんの秋穂に対する執着というかなんというかは、珍しい小動物を愛でる感じからだんだんランクアップしていって秋穂にとっては災難以外の何でもない状態になっていますが、二人の立場もありますしどうなるのかなー、物語最終盤での様子を見る限り、もうこれ逃げ切れないやつだ……というような状況になっておりますが、

直接的な描写はあまりないものの、女性がかなり酷い扱いを受けていて読んでて辛……と思ったり、秋穂が「女性の若手キャリア官僚」という立場から色々と苦い思いをしているところになんとも言えないもやもやを感じつつ、若さゆえの暴走というか勇み足も読んでてなんとなく辛くなったりと、こう、手放しで面白かったーといえる読了感はなかったのですが(逆に考えると、ここまでもんもんとさせるのはすごくうまいなぁとも思います)、事件や背景そのものは手に汗握るおもしろさがあって全体としては面白かった!といえる作品でした。秋穂がいかに外堀埋められて追い詰められるか気になるので、webで公開されている続編をぼちぼちチェックしていこうと思います。

香港シェヘラザード(上)蕾の義
三角くるみ
富士見L文庫(2020.02)
amazon/honto/BOOKWALKER


香港シェヘラザード (下)花の奸
三角くるみ
富士見L文庫(2020.02)
amazon/honto/BOOKWALKER

References

1 元のオンライン版も(本記事作成時点では)個人サイトで公開されています