傷心公爵令嬢レイラの逃避行(上) / 染井由乃

本の感想, お気に入り, 作者名 さ行染井由乃

事故に巻き込まれ2年間の昏睡状態から目覚めたレイラは、婚約者であった王太子ルイスはレイラの妹ローゼと結婚間近となっており、しかもローゼはルイスの子供を身ごもっているという事実を突きつけられる。非の打ち所のない完璧な公爵令嬢としてつらい日々に耐えてきたレイラは、自身の存在意義をなくし修道院に駆け込むことを決意するが、修道院に辿り着く前に魔術師リーンハルトに保護される。初対面のときから何故かレイラに求婚してくるリーンハルトと、その妹の家族と過ごすうちにリーンハルトに惹かれるレイラだが……

壮絶なすれ違いの物語でつらい(おもしろいです)

カクヨム連載のweb小説からの単行本の上巻(web版は未読です)。昏睡状態から目覚めたレイラが捨て鉢になって修道院に行こうとして、リーンハルトに保護されて、今までのハードモードは何だったのかというくらい穏やかな日常をちょっとだけ送ったのち、リーンハルトとすれ違ってしまってルイスに囚われてしまう、という上巻でした。すれ違いっぷりが読んでて辛い。

序盤は公爵家の皆さんのレイラへの対応に「天誅!」と思いながら読んでいたのですが、後ほど語られるそれぞれの視点からの背景を知ってそうも簡単に片付けられるものでもないなぁ、と(いい意味で)もやもやしたものを抱えてしまいました。いや、でも母親の対応はもうちょっとやりようがあったのではと思うし、妹ちゃんの涙を武器にするのはともかくアレとかソレとかは以ての外なんだけど……劣等感からくる行動と思えば仕方がない……ことはない、やっぱりだめだ。ヤンデレの病み成分しか見せてないルイス、そしてレイラも含めてもうちょっとみんなちゃんと話してたらここまでの悲劇は起きなかったのになぁ、というすれ違いっぷりがすごい。ルイスが結婚してからとは言わずにその場でちゃんと言ってたらここまでこじれなかったぞ、と思うと、ルイスが一番悪いような気もしてきた。

一方の、今の所いい人ポジションのリーンハルトも、上巻を最後まで読むとこの人もヤンデレるんじゃないかと戦々恐々としてしまいますが(上巻の終盤に出番がないのでその出番のない間にヤンデレ化してるのではないだろうかという恐怖)、中盤のレイラを甘やかすところはそこまでがハードモードだったので際立って良いものでしたね~。それだけに、このあと怖い方向に転がってしまう(かもしれない)のが怖いような、ちょっと読みたいような。プロローグが、ねぇ。

「非の打ち所のない公爵令嬢」という記号のようだったレイラが、上巻では徐々に強くなって行っていく様子はちょっと楽しかったので下巻はもっと強くならないかな、と続きも楽しみです。しかし、(Wヒーロー状態のリーンハルトとルイス)、レイラがどっちに転んでもバッドエンドになりそうな幻覚も見えなくもないので、レイラにはちゃんと幸せになってほしい……たぶんリーンハルトエンドだとは思うんですが。

傷心公爵令嬢レイラの逃避行(上)
染井由乃/鈴ノ助
電撃の新文芸(2020/05)
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