ベアトリス、お前は廃墟の鍵を持つ王女 / 仲村つばき

本の感想, お気に入り, 作者名 な行仲村つばき

先々代の女王の取り決めにより、王族による共同統治が行われることになったイルバスでは、アルバート王、ベアトリス王女、そして成人後に即位することになるサミュエル王子の三人により国の舵取りが行われていた。武を誇る兄のアルバートと知略の面で先んじようとする弟サミュエルの間に挟まれ、三人のバランスを取ることに苦心するベアトリスは、趣味の工業生産に注力するという名目で辺境の工業都市リベルクに引きこもっていた。ベアトリスを自陣営に取り込もうとするアルバートとサミュエルと駆け引きをするベアトリスは、それぞれから王配と側近となる王杖を押し付けられそうになる。

1冊で終わるのがもったいない物語でした。

コバルトで電子版が出て(最近オレンジ文庫から書籍版が出てた)「廃墟の片隅で春を歌え」の孫世代のお話。王の子はすべからく王位を継ぐという、際限なく王様が増えそうな仕組みを残していった先々代の女王の取り決めを守り三きょうだいで国を統治することに成るものの、そりゃもめるわな……というお話で揉めてました。
アルバートもサミュエルも、(家族としては好きなものの)ベアトリスを下にみるというかなんというかの雰囲気をムンムンと出していたので、なんだか感じ悪いな!成敗されてしまえ!と思って読んでいたのですが(笑)、不思議なことに最後の最後の一応の大団円に向かうあたりにはこれは家族愛の話でもあったんだとストンと腑に落ちて、あのアルバートの尊大さもツンデレのすごいツンと思えばかわいいもんだなーというところに落ち着いてしまいました。お兄ちゃんはただただ不器用なだけだった(アルバートの王杖のウィルもいい具合にアルバートの尊大さを中和していた)。王としての自分と兄としての自分の相反する感情を持て余すお兄ちゃんが良いものだった……ぞ?(たぶん)弟くんはまだまだ発展途上なので今後の活躍が期待されます。
主人公のベアトリスは、のらりくらりとしながらも王として、そして妹であり姉でもある三きょうだいの真ん中としての立ち位置を死守して、それでいて最後は自分の思うところに着地させた姿はお見事。ついでにいうと、(甘さはごくごく必要最小限で少ないものの)前シリーズよりもうまく自分の伴侶を迎えることができて、よかった、前みたいに切った張ったにならなくてよかった、と違う意味での感動を覚えてしまいました。

「王の子はすべからく王位を継ぐ(王位放棄はあり)」のシステムが成り立つのは、人数の観点からしてこのあたりがギリギリのような気がするんですけどこの先どうなるんだろう……とちょっと気になるものの、うまい具合に今月弟サミュエルくんとその王杖のお話(今度は王杖は多分女性だぞ!)があるので楽しみです。今月出る物語も含めるとこの1冊で終わり、ということもないのかなー、でも今回のお話のてんこ盛りさから考えると少なくとも上下巻くらいで読みたかったなぁとも思ってしまいました。

余談ですが、作者さんの裏話もちょうど公開されて、前シリーズとのつながりの答え合わせもできたので良かったです。
『廃墟シリーズ』発売後の裏話・ベアトリス世代への引き継ぎ設定について|仲村つばき(一部ネタバレを含む記事です)

ベアトリス、お前は廃墟の鍵を持つ王女
仲村つばき/藤ヶ咲
集英社オレンジ文庫(2020.08)
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