バベルの歌姫―悪霊娘と落ちてきた恋人― / 夏目瑛子

本の感想, 作者名 な行夏目瑛子

父親の残した借金を返済するために、家での「悪霊栽培」を生業としているルシータ。おかげで村人からは魔女と噂され、たまに家に帰ってくる兄と兄の友人しか知り合いがいないという寂しい生活をしていた。ある夜、空でちゃらちゃらしている月の女神の騎士に殺意を覚えたルシータは、怪しげなもらい物の矢を射掛ける。そして翌朝自宅のトマト畑に行き倒れていたのは美形だが記憶を失った妙な青年で……


B’s-LOG文庫の新人さん2作目。1作目も若干「変」なお話を出されていた方ですが、2作目も何となく「変」なお話でした。……うまくいえないんですが、なんか「変」なんですよね。私、このタイプの「変」は嫌いじゃないです(がとても好きというわけでもない)。悪霊を育てるために「何か罵らないと!」って、原理はよく分かるんですがやっぱり何か変です(が妙に面白かったりする)。

古代バビロニアを舞台に片田舎で暮らす少女ルシータと、傲岸不遜唯我独尊なとても俺様の青年シンヒルドの繰り広げるラブコメ、になるのでしょうか?ルシータはいつも一生懸命で家族思いでかわいらしい少女なんですが、とにかくシンヒルドの俺様っぷりが容赦ない。すごい俺様。個人的には俺様タイプはあんまり好みでないのでこのカップルにニヤニヤするということはなかったんですが、ルシータの一生懸命っぷりがかわいかったので何でもいいや。
で、わりと気楽に読んでたらラスト周辺でとても盛り上がって、不覚にもなんかええ話や……とちょっとぐさりと来てしまいました。急にとてもロマンティックになって反則ですと思ってしまう程度にちょっといい話でした。話のノリについて行けないかも、というのはあるかもしれませんが、最後の方は少女小説的にも外れのない展開ですのでくじけずに読んでみるのもいいかもしれません。

バビロニア舞台のお話って珍しいなぁと思いながら、なにかなかったかなぁと記憶の片隅をつついてみたら、ウィングス文庫の隠れた名作を思い出しました。あれは良い物でした。
→ 雁野航『洪水前夜 あふるるみずのよせぬまに』 【bk1

バベルの歌姫 悪霊娘と落ちてきた恋人
夏目瑛子/香坂ゆう
B’s-LOG文庫(2009.02)
ISBN:978-4-7577-4716-6
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