夜の王子と魔法の花 / 渡海奈穂
放課後の図書館にいたはずのさちこはいつの間にか見知らぬ国の墓穴にいた。滅びの道を歩む異世界の国ルシタリアにやってきてしまったらしいさちこは、成り行きで国民皆が恐れる「暫定王」ディーレの世話役を押し付けられてしまう。さちこにも脅しとそっけない態度をとるディーレだったが、生来の「おねえちゃん気質」からディーレの世話を焼くうちに、さちこはディーレに近づいていき……
異世界トリップ、面白かったー!
ウィングス文庫の読み切り異世界トリップもの。「呼ばれる」・「特別な力を持つ」といった風ではなく、ごくごく普通の女子高生が異世界に飛ばされてしまって、みんなに恐れられる王子様の心を解きほぐして行くお話。さちこがディーレの心に寄り添うところや、ディーレが徐々に丸くなっていくところが!少女小説的に!いやこれちょっと児童小説っぽいところなんかも合ったりして!(好みです)
ルシタリアの荒廃の理由や、その背後に隠されていたディーレの両親、そして祖母の愛などもなかなか読み応えがあり面白かったです。面白かったといえば、あの人関係。まさかここまで物語に関わってくる人とは思ってもみなかったので意外でした。よく考えたらそれしかない、と言えばそれしかないんだけど。
描き下ろしの後日談がこれまた素晴らしくて、ニヤニヤしながら、そしてとても納得しながらのエピローグも良かったです。ディーレが王となり、国を守ろうとする決意を語る部分はなんだかかっこいいなぁ、と。大義名分を振りかざすわけではなく、淡々と自分のやりたいことを語る姿がよいものでした。