マル合の下僕 / 高殿円

本の感想, 作者名 た行高殿円

天下のK大を卒業し、学者街道を突き進んでいた瓶子貴宣だが、勢力争いを読み違え、今はしがない女子大の非常勤講師。月収10万円ちょっとの上に小5の甥っ子を養育し、爪に日を灯す貧乏生活を送っていた。受け持ちの授業を死守し、あわよくば担当者のいなくなった授業をかっぱらおうと画策する貴宣の前に、アメリカ帰りの強力なライバルが出現してしまう。

かしこいひとをおこらせるとこわいね。というお話でした。

今回のお仕事は、私大の非常勤講師のお話。若干の誇張はあると思うのですが、それにしてもギリギリの生活だ……(しかも子どもを養育)、と感心しながら読んでしました。この収入なら生活保護の対象には……ならないのかな、いくら非常勤でも1コマあたりの報酬はちょっと低すぎやしないだろうか……とも少し思ったりもしたのですが、そのあたりあまり考えないでおこう、ということで。

コマをもぎ取るためなら、そして専任講師の座を得るためならなんでもやる、長いものにはまかれまくれ!卑怯な手だってつかってやるぞ!という主人公が、実は本人が思っているほど悪い人じゃなくて、それどころか心は熱い熱血漢で、根性で乗り越えていくところは楽しかったです。えぐかったけど。

おもに非常勤講師の悲喜こもごもかなぁと思って読んでいましたが、それ以上に大きな部分を占めていたのは「家族」のこと。貴宣が育てている甥っ子の誉くんのかわいいこと、けなげなこと!そして貧乏生活をうまくいきのびていること!最初はちょっと聡い男の子なんだなぁ、と思っていたらなかなかどうして、貴宣と誉くんの物語に思わずうるっときてしまいました。予想してなかっただけに、こういうのに弱いです。

ヤマさんのメゾン計画や、最初から最後までなぜか微妙に良いポジションだった謎の薬膳の存在感と細かいところも楽しくて、高殿さんのお仕事小説って(読んでいて辛い気分になることもあるものの)楽しいなぁと思った作品です。そして、関西が舞台なので主人公の卒業校はたぶん京大で、あの人の出身校は阪大で、関係者は市大で、あの人が移った先は奈良女で、そしてたぶん舞台は武庫女(たしか作者さんの出身校)というあたりがなんとなくわかったのも楽しかったです。関東の大学だと、たとえトップ校でもよくわからん。

マル合の下僕
高殿円
新潮社(2014.10)
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