茉莉花官吏伝 皇帝の恋心、花知らず / 石田リンネ

本の感想, 作者名 あ行石田リンネ

後宮の下位女官・茉莉花は「物覚えがすごくいい」という特技を持ちつつも、周囲に紛れ目立たずことを荒立てないように毎日を送っていた。ある日、女官長から名家の子息のお見合いの練習に付き合うように命じられる。向かった先にいたのは、当初の予定の子息ではなく皇帝の珀陽。混乱しつつもなんとか「お見合いの練習」を続ける茉莉花の特技を知った珀陽は、茉莉花を科挙試験に合格させるために大学に編入させる手配を行って……

後半の茉莉花がかっこよかったです。

石田さんの新作、シリーズ化の有無はわかりませんが一応1冊でカタがついているといえばついてる作品でした。
後宮で女官として仕えるものの、上昇志向はまったくなく、ただ日々平穏に大過なく過ごすことを希望する消極的な茉莉花の才能を皇帝が見出し、官吏となるために珀陽がいろいろと手を回すが茉莉花本人はまだまだ乗り気ではなくて「やらされている」感が強い。そんな中、茉莉花が彼女の世話役となってしまった同級生の春雪と接し、そして珀陽や珀陽の側近たちと話すうちに自分の意思で官吏になろうと決意し、能動的に動き出した姿が良いものでした。珀陽は強引ではあったんですが、お膳立てはする、しかしをそれを使って先に進むかどうかは茉莉花次第という姿勢も良いものだったなぁ。あとは春雪くんもおっしゃっているこのサブタイトルが、ぐっときます。

確かに中盤までの茉莉花の受け身の姿勢は少々ストレスのたまるものだったんですが、これがあるからこそ終盤の茉莉花のかっこよさが際立っていたなと感じました。男社会である官吏の世界に女性が乗り込む、というと某別レーベルの大作少女小説を彷彿させますが、茉莉花は最初の一人ではなくて前例となる女性官吏が数人いて、しかもみんなパワフルで頼りになりそうで、女性だからと何でもかんでも否定されるというような世界ではなさそうなので、このあたりは(読んでいる方も)ストレスなさそうで好きだなぁ……。

ということで、続きが出るのであればぜひとも読みたいです。

茉莉花官吏伝 皇帝の恋心、花知らず
石田リンネ/IZUMI
ビーズログ文庫(2017.07)
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