思い出のとき修理します / 谷瑞恵

本の感想, お気に入り, 作者名 た行谷瑞恵

幼いころ一ヶ月だけ世話になった祖父母の美容室兼住居が貸し出されていることを知った明里は、傷心を抱えて逃げるようにさびれた商店街に引っ越してきた。明里はお向さんの時計屋・秀司や秀司に餌付けされているイマドキの大学生・太一と過ごすうちに寂れているが優しい商店街に徐々に馴染んでいく。

ほんわかするよい物語でした。

谷さんの集英社文庫からの一冊。コバルトじゃないので「キャッキャウフフ」分は抑え目での、静かで優しい物語でした。短編連作方式でひとつの物語が紡がれて、最後に綺麗に着地するのが本当に心地がよかったです。さすが谷さん!と思わず納得でした。明里ちゃんと時計屋さんの距離が徐々に縮まっていくところがよいものですねぇ……ほらまあ少女小説好きなので、そのあたりは、押さえておかないと(笑)。二人が関わるとある「事件」を解決し、そして二人がとらわれているそれぞれの過去と決別し、前へ進んでいくところがすごく素敵でした。時計屋さんのお話も、明里ちゃんのお話も好きだなぁ。

なんとなく「時計屋さんがなんだか不思議な力を持っている、日常のちょっと不思議物語」と思っていたんですが、そんなことはなかったです。若干「不思議」なところはありましたが、そういう「不思議」もあるかもしれないね、という程度の「不思議」だったので……。不思議といえば、神社の太一くんは冗談抜きで神様のお使いと思ってたのですが(神出鬼没だし)そんなこともなかったという。お、思わせぶりな!(たぶん、思うツボ)。

この一冊だけでも十分綺麗に終わっているのですが、どうやら秋に続刊が出る模様です。続刊と同時にドラマ化とか、これを機に谷さんがコバルト卒業とかそんな展開を予想してしまい、なんとなくさみしいなぁ……と。谷さんのコバルト作品好きだから余計に心配でやきもきしてしまうのは、わがままなファンなんだろうなーとなんとも言えない感情を持て余しております。

思い出のとき修理します
谷瑞恵
集英社文庫(2012.09)
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