王杖よ、星すら見えない廃墟で踊れ / 仲村つばき
まっすぐなエスメとエスメに影響を受けて若干丸くなっていくサミュエルがよかった!
前作のベアトリスの物語で、何ということをしでかしたんだ!というようなポジションにいた弟王子のサミュエルが、もがきながら王として即位するまでのお話。前作ではフォローもあったとはいえ、なんという弟君なんだ、という印象は拭いきれなかったのですが、ベルトラムの中でも難しい地方の運営に頭を悩ませ、優秀すぎる兄姉がだいぶ前を進んでおり、更にサミュエルに過度に依存する母親(王太后)と怪しい取り巻きの暗躍と、もうこれはサミュエルくんスタート時点からつらすぎてヤサグレるの待ったなしなのにここまでちゃんと王族としての義務を果たそうとするなんてすごすぎる……と物語の序盤も序盤で見直しました。サミュエルくん、ちゃんと王の器がある!
王太后のサミュエルへの依存に関しては、背筋が寒くなるというかどろどろしすぎて辛いものがあり、上の二人(アルバートとベアトリス)が有能すぎたゆえにさらに依存をこじらすという悪循環で、お話の全体に暗い影を落としてはいたものの、エスメの明るさと前向きさがいい具合に中和していて暗くなりすぎないちょうどいいバランスでした。エスメが「クリスのふりをする」原因となった、クリスの引きこもり要因については、最後の最後でなんというオチ……とシリアスなのかシリアスじゃないのかわからなくなって若干困惑してしまいました(+エスメとクリスを目の敵にしていたあの人も大変だったな、と終始実は嫌なやつじゃないっぽい感が醸し出されていたことに納得)。ちゃんと和解というか、サミュエルのとりなしもあってよかったね、お兄ちゃん(とライバル)。
いろいろとしんどい展開の連続ではありましたが、エスメはサミュエルの最後の真意にいつ気付くのかなぁ(誰か(かサミュエル)に指摘されるまで気付かなさそう)とかちょっとした楽しみな余韻もあり、最後の「うまくまとまった感」は今回も健在で良いものでした。尊大すぎる長兄アルバートの物語も読んでみたいな、期待していいですか?と思いつつ次回作も楽しみです。
王杖よ、星すら見えない廃墟で踊れ
仲村つばき/藤ヶ崎
集英社オレンジ文庫(2021.03)
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